損益相殺 裁判例集

損益相殺

損益相殺とは、被害者などが事故に起因して何らかの利益を得た場合、当該利益が損害の填補であることが明らかな場合には、損害賠償額から控除するというものです。

これは、交通事故によって生じた損害は、不法行為法の範疇であり、同法が被害者と加害者との間の損害の公平な分担という基本的な考え方をとっていることから生じる考え方です。簡単にお伝えすると、損害額の二重取りは公平でないので、許さないということです。

何が控除されるか、何が控除されないかについては、実務上類型化されているので、以下のリンクをご参照ください。

損益相殺

次に、損益相殺の対象になり、損害額から控除されるとした場合、他の減額事由(過失相殺・素因減額等)との控除される順番によって、最終的に支払われる金額が変化することになります。

たとえば、以下の表を見比べていただければ、一目瞭然ですが、被害者からすれば、損益相殺をしたあとに過失相殺をした方(損益相殺先行・過失相殺後行)が、最終的な損害賠償額が大きくなるので有利ですね。

そこで、被害者側にとって、どのような場合に、どのような順序で損益相殺がされていくのかという点は、重要な関心事項と思われますので、裁判例を挙げさせていただきます。

(※ 損益相殺と過失の表を横に並べて視覚的に見てみる)

健康保険・国民年金・厚生年金

損害額から保険給付額を引いた残額に対して過失相殺をすることになっています。損益相殺が先行しているので、被害者側にとって有利な制度です。

損益相殺と過失に関する判例

1 労災保険との関係

昭和時代の裁判例では判断が分かれていましたが、平成に入って最高裁判例が出たことから、判断が統一しました。判例上、被害者側にとって不利ではありますが、健康保険などと異なり、過失相殺後に、既に受け取った労災保険給付を損益相殺すべきであるとして、過失相殺後に控除する考え方を採用しています。

その理由として、最高裁判例は、

  1. ①国が労災を支給した場合には、労災法上、支払った部分の損害賠償請求権が国に移転する(国が加害者などに対して求償権を持つ)上で、逆に加害者などの第三者から同じ事由により損害賠償を受け取っていた場合には給付をしないと定めており、二重取りを認めてないことから、政府が労災保険を支払った場合には、受給権者が加害者などに対する損害賠償請求権は、損益相殺されてしまうこと
  2. ②労災受給権者の過失を考慮すべき場合には、受給権者は加害者など第三者に対し右過失を斟酌して定められた額の損害賠償請求権を有するにすぎないこと
  3. ③その結果、国に移転する損害賠償請求権も過失相殺後の損害賠償請求額を意味すると解するのが、文理上自然であることを挙げています。

(原典)平成元年4月11日 最高裁判所第三小法廷判決(http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=52214

原文:

労働者災害補償保険法(以下「法」という。)に基づく保険給付の原因となつた事故が第三者の行為により惹起され、第三者が右行為によつて生じた損害につき賠償責任を負う場合において、右事故により被害を受けた労働者に過失があるため損害賠償額を定めるにつきこれを一定の割合で斟酌すべきときは、保険給付の原因となつた事由と同一の事由による損害の賠償額を算定するには、右損害の額から過失割合による減額をし、その残額から右保険給付の価額を控除する方法によるのが相当である(最高裁昭和五一年(オ)第一〇八九号同五五年一二月一八日第一小法廷判決・民集三四巻七号八八八頁参照)。

 

けだし、法一二条の四は、事故が第三者の行為によつて生じた場合において、受給権者に対し、政府が先に保険給付をしたときは、受給権者の第三者に対する損害賠償請求権は右給付の価額の限度で当然国に移転し(一項)、第三者が先に損害賠償をしたときは、政府はその価額の限度で保険給付をしないことができると定め(二項)、受給権者に対する第三者の損害賠償義務と政府の保険給付義務とが相互補完の関係にあり、同一の事由による損害の二重填補を認めるものではない趣旨を明らかにしているのであつて、政府が保険給付をしたときは、右保険給付の原因となつた事由と同一の事由については、受給権者が第三者に対して取得した損害賠償請求権は、右給付の価額の限度において国に移転する結果減縮すると解されるところ(最高裁昭和五〇年(オ)第四三一号同五二年五月二七日第三小法廷判決・民集三一巻三号四二七頁、同五〇年(オ)第六二一- 1 -号同五二年一〇月二五日第三小法廷判決・民集三一巻六号八三六頁参照)、損害賠償額を定めるにつき労働者の過失を斟酌すべき場合には、受給権者は第三者に対し右過失を斟酌して定められた額の損害賠償請求権を有するにすぎないので、同条一項により国に移転するとされる損害賠償請求権も過失を斟酌した後のそれを意味すると解するのが、文理上自然であり、右規定の趣旨にそうものといえるからである。

2 政府保証事業による填補金との関係

加害者が任意保険だけでなく、自賠責保険にも入っていなかったような場合には、被害者保護のために作られた制度として、自賠責保険に政府保証事業による填補金を請求することができます。

加害者が無保険の場合の事故

政府保証事業から填補金を受け取ったあと、被害者が加害者に請求したのがこの判例です。この場合も、被害者側にとっては不利ですが、先に過失相殺をしてから、のちに損益相殺をする考え方を採用しています。

基本的に1労災保険と同じ考え方に基づいているものと思われます。

(原典)平成17年6月2日 最高裁判所第一小法廷判決(http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=52408

原文:

法72条1項後段の規定により政府が被害者に対しててん補することとされる損害は、法3条により自己のために自動車を運行の用に供する者が賠償すべき責めに任ずることとされる損害をいうのであるから、法72条1項後段の規定による損害のてん補額は、被害者の過失をしんしゃくすべきときは、被害者に生じた現実の損害の額から過失割合による減額をした残額をいうものと解される。

 

そして、法73条1項は、被害者が、健康保険法、労働者災害補償保険法その他政令で定める法令に基づいて法72条1項の規定による損害のてん補に相当する給付を受けるべき場合には、政府は、その給付に相当する金額の限度において、上記損害のてん補をしないと規定し、自動車損害賠償保障法施行令21条14号は、法73条1項に規定する政令で定める法令の一つとして国民健康保険法を挙げているから、同法58条1項の規定による葬祭費の支給は、法73条1項に規定する損害のてん補に相当する給付に該当する。

 

したがって、【要旨2】法72条1項後段の規定による損害のてん補額の算定に当たり、被害者の過失をしんしゃくすべき場合であって、上記葬祭費の支給額を控除すべきときは、被害者に生じた現実の損害の額から過失割合による減額をし、その残額からこれを控除する方法によるのが相当である。

3 人身傷害保険との関係

やや特殊な考え方をするのが、人身傷害保険です。人身傷害保険は、契約者が任意で入ることが可能な保険です。細部は約款によって異なりますが、被保険者の故意または極めて重大な過失以外の場合であれば、急激かつ偶然な外来の事故により、被保険者が身体に傷害を被った場合に、人身傷害保険会社(以下、「人傷社」と略します。)の支払い基準に従い支給されるものです。

つまり、被害者である保険金請求者に過失があっても、たとえば自損事故であっても、故意や飲酒運転などの故意に近い重過失でないかぎり、被害者に対して支払われるという保険です。

ただし、人傷社が被害者である保険金請求者に支払った金額については、「保険金請求権者の権利を害さない範囲」で、被害者である保険金請求者から権利が人傷社に移転することにより、人傷社は加害者に対して求償権を持つことになります。

これらのことから、最高裁は、被害者である保険金請求者に過失があっても、先に過失割合部分に充当したうえで、人身傷害保険金額と被害者の加害者に対する過失相殺後の損害賠償請求権の額との合計額が、過失相殺前の裁判基準損害額を上回る場合にかぎり、その上回る部分に相当する額の範囲で人傷社が保険金請求権者の加害者に対する損害賠償請求権を代位取得することとし、それと同時に、人傷社が代位取得可能な部分のみ損益相殺の対象となると考えました。

(原典)平成24年2月20日 最高裁判所第一小法廷判決(http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=82008

原文:

訴外保険会社が代位取得する保険金請求権者の加害者に対する損害賠償請求権の範囲について検討する。

本件約款によれば、訴外保険会社は、交通事故等により被保険者が死傷した場合においては、被保険者に過失があるときでも、その過失割合を考慮することなく算定される額の保険金を支払うものとされているのであって、上記保険金は、被害者が被る損害に対して支払われる傷害保険金として、被害者が被る実損をその過失の有無、割合にかかわらず塡補する趣旨・目的の下で支払われるものと解される。

 

上記保険金が支払われる趣旨・目的に照らすと、本件代位条項にいう「保険金請求権者の権利を害さない範囲」との文言は、保険金請求権者が、被保険者である被害者の過失の有無、割合にかかわらず、上記保険金の支払によって民法上認められるべき過失相殺前の損害額(以下「裁判基準損害額」という。)を確保することができるように解することが合理的である。

 

そうすると、上記保険金を支払った訴外保険会社は、保険金請求権者に裁判基準損害額に相当する額が確保されるように、上記保険金の額と被害者の加害者に対する過失相殺後の損害賠償請求権の額との合計額が裁判基準損害額を上回る場合に限り、その上回る部分に相当する額の範囲で保険金請求権者の加害者に対する損害賠償請求権を代位取得すると解するのが相当である。

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