過失相殺 裁判例集

配偶者の過失を被害者側の過失として過失相殺した判例

最高裁昭和51年3月25日判決

【事案の概要】

妻であるX2を同乗させたX1が運転する車と、Yが運転する車が交差点で出合い頭に衝突し、X2が負傷。事故現場は五差路の交差点で、X車は進行方向の信号機が赤色の点滅をしている状況で進入し、Y車は進行方向の信号機が黄色の点滅をしている状況で交差点に進入した。

X2がYに対し損害賠償請求訴訟を提起したところ、YはX1に過失があることを理由として過失相殺の主張をし、原審は過失相殺を否定したため、Yが最高裁に上告した。

【争点】

夫の運転する自動車に同乗した妻が、夫の自動車と第三者が運転する自動車との衝突により損害を被った場合で、夫にも過失があるとき、夫の過失を民法722条2項の「被害者に過失があったとき」として斟酌することができるか。

【裁判所の判断】

裁判所は、民法722条2項が不法行為による損害賠償額を決める際に被害者の過失を斟酌できるとしたのは、加害者と被害者との間で損害を公平に分担させるためであるから、被害者の過失には、被害者本人と身分上、生活関係上、一体をなすとみられるような関係にある者の過失、すなわち、いわゆる「被害者側の過失」も含まれるとしました。

そして、夫が妻を同乗させて運転する自動車と第三者が運転する自動車とが、第三者と夫との双方の過失により衝突し、傷害を負った妻がその第三者に対し損害賠償を請求する場合には、夫婦の婚姻関係が既に破綻にひんしているなど特段の事情のない限り、損害額を算定にあたり夫の過失を被害者側の過失として斟酌することができるとしました。

【解説】

民法722条2項は「被害者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の額を定めることができる。」としています。このように不法行為による損害賠償額の算定にあたって被害者の過失を斟酌して損害賠償額を減額することを「過失相殺」と言います。

過失相殺は、損害の公平な分担という観点から行われます。損害を被ったことにつき被害者本人に過失がある場合が「被害者に過失があったとき」にあたるのは当然ですが、被害者の配偶者等に過失があった場合も「被害者に過失があったとき」にあたるとして、過失相殺ができるのかどうかが争われたのが本件です。

原審は、まずX1につき、左方の確認を十分なすべき注意義務を怠り、漫然本件交差点に進入し、衝突して始めてY車に気付いたとして、X1とYの過失割合を5:5と認定しました。そして、X2については、X1の運転について指示ないし関与したとか、あるいはX1の運転を妨害するような行動をしたとか、その他、X1の注意義務違反行為について誘因となるような行動をしたと認めるに足りる証拠はなく、そのほかの全証拠を検討しても本件事故につきX2に過失があったと認めることができないとして、「X2について過失相殺を適用する余地はない。」と判断しました。

つまり、X1の過失は、X2の過失相殺にあたって斟酌しないとしたのです。

これに対し、上告審である最高裁は、夫の運転する自動車に同乗していた妻が第三者の運転する自動車に衝突されて、傷害を被った場合に、その損害額を定めるにつき、特段の事情のない限り、運転者である夫の過失を被害者側の過失として斟酌すべきであるとしました。

そして、原判決中のX2に関するYの敗訴部分を破棄し、特段の事情の有無、X2に対する損害賠償の額を定めるについての過失の割合等について、更に審理を尽くさせるために原審に差し戻しました。

本件のような事案で、下級審の裁判例は、夫にも責任があることは第三者の妻に対する賠償責任に何ら影響を与えないとして、過失相殺にあたって夫の過失を斟酌しないものと、

夫婦の身分上及び経済的一体性を理由に被害者側の過失として過失相殺にあたって斟酌するものとに、判断が分かれていました。本最高裁判決は、後者の立場に立つことを明確にしたものです。

このように、被害者本人の過失だけでなく、被害者と一定の関係にある者の過失も「被害者に過失があったとき」に含まれるとする考え方は、「被害者側の過失の理論」と呼ばれています。

被害者側の過失の理論により、最高裁において身分上・生活関係上一体であると判断された関係としては、本件のような夫婦関係の他に、監督義務者である親と未成年の子(最高裁昭和34年11月26日判決)、内縁の夫と妻(最高裁平成19年4月24日判決)があります。

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