むち打ち [公開日]2018年7月12日[更新日]2021年4月6日

医学的他覚所見がないむち打ち症の後遺障害認定

むち打ち症(頚椎捻挫)」は、交通事故の被害に遭ったときによく問題となる症状です。
予期していないタイミングで頸部に急な衝撃を受けることで、首の痛みや肩・腕の痺れなど、さまざまな自覚症状が起きることがあります。

しかし、むち打ちは被害者の自覚症状があっても、レントゲンなどで症状を明確に確認できない(=医学的他覚所見がない)場合が多く、「本当に痛みがあるのか?」という点で示談交渉がこじれる原因になりやすい怪我であるともいえます。

今回は、このような「レントゲンではわからない」「医学的他覚所見がない」むち打ちの損害賠償請求について解説します。

1.むち打ちの自覚症状と他覚症状

(1) 自覚症状・他覚症状とは?

交通事故でなりやすいむち打ちには様々な症状がありますが、よく知られている症状としては次の通りです。

全身疲労・無気力感、不眠・頭痛、首や肩・腕などの痛みや痺れ

これらの症状は、常に症状がある場合もあれば、天気の悪い日や、寝起き、就寝前などに患部が痛み出すといったこともあります。

さて、むち打ちに限らず、病気や怪我の症状には、「自覚症状」と「他覚症状」があります。

上であげた不眠や痛み・痺れというのは、すべて「自覚症状」です。自覚症状は、被害者(患者)本人しか感じることができません。

他方で、「他覚症状」は、患者本人以外の第三者(医師など)が客観的に確認できる症状のことをいいます。
最もわかりやすい例は、傷などの直接の目視や、レントゲン・MRIの画像を見て確認できる症状です。「骨の変形」などのように、患者本人には自覚のないものもあります。

むち打ちは、自覚症状があっても「他覚症状がない」ことが多く、保険会社との交渉がもつれる原因となることがあります。

(2) むち打ち損害賠償と他覚症状の関係

交通事故の損害賠償は、「実際に生じた損害」を保障するものです。

しかし、「首が痛い」「手が痺れている」などの被害者の言い分を見境なく全て認めては、過剰な賠償額となる可能性があります。
自覚症状は、被害者本人にしか分からないからです。

したがって、保険会社との示談交渉で適切な金額の損害賠償を請求するときには、「客観的な証拠」に基づいて、自覚症状についてしっかり説明することが大切です。

2.他覚症状の有無による慰謝料額の違い

交通事故では、他覚症状があるかどうかで慰謝料額に違いが出てきます。

医師による治療が終了した後(症状固定後)であっても、痛みや痺れなどの自覚症状が残る場合があります。
このような、治療終了(症状固定)後に残った症状への損害賠償は、「慰謝料」を請求することで補償を受けることができます。

後遺障害に対する慰謝料額は、「後遺障害等級」によって決まります。
むち打ちの場合は、「他覚症状の有無」によって、次のように認定される等級が異なります。

他覚症状の有無 後遺障害等級 自賠責基準の慰謝料額 裁判基準の慰謝料額
他覚症状がある場合 12級13号、「局部に頑固な神経症状を残すもの」 93万円 290万円
他覚症状がない場合 14級9号の「局部に神経症状を残すもの」 32万円 110万円

実際のむち打ち症は、後遺障害が認定されたときでも最下位の等級である14級9号の認定となることが多いです。

MRIやCT、レントゲンといった画像診断でむち打ちの症状が他覚でき、それと交通事故の因果関係が認められれば、12級13号の認定を受けられる場合があります。

なお、後遺障害診断書などの必要書類によって、自覚症状の存在さえも「客観的に示せない」ときには、本人が自覚症状を訴えていても「後遺障害なし=非該当」の認定となってしまうことも少なくありません。
非該当になれば、後遺症慰謝料や逸失利益を一円も得ることはできません。

3.他覚症状がないむち打ちの後遺障害認定のポイント

上記のように、他覚症状がある場合は、ない場合に比べて3倍近い慰謝料等の賠償金を受け取ることができます。
また、他覚症状がなくても、14級が認められれば後遺障害慰謝料や逸失利益を支払ってもらうことができます。

被害者としては「実際に症状があり苦痛を感じている」ときには、やはり適切な補償を受けたいものです。

最後に、他覚症状がない(医学的他覚所見がない)むち打ちで後遺障害認定(14級)を受けるために気をつけるべきことを解説します。

(1) 事故直後からしっかり通院する

後遺障害の認定を受けるためには、交通事故直後から症状固定の診断があるまで、医師の下で十分な治療を継続して受けることが必要です。

たとえば、「交通事故直後に通院せず、事故から1ヶ月以上経ってからはじめて医師の診察を受けた場合」や、「通院ペースが月1回〜2回など少ない場合」、「医師の診察を受けずに整骨院の施術のみで済ませた場合」などには、「非該当」とされる可能性が非常に高くなります。

通院時期が遅くなれば事故と怪我の因果関係が否定されやすく、通院頻度が少なければ「症状が軽い(ない)」と判断されやすいです。特に、事故直後に通院しなかった場合等は、後から痛くなって通院し出しても、そもそも交通事故の為の治療として認めてもらえない可能性が出てきますので、極めて危険です。

また、医師の定期的な診断が無く、整骨院のみの通院の場合、後遺障害等級の認定を受けることは不可能です。なぜなら、整骨院は病院ではないため「医師の診断書」は作成できないため、後遺障害等級認定に必要な「後遺障害診断書」を作成することができないからです。

整形外科と整骨院の同時通院|適正な交通事故慰謝料のために

[参考記事]

交通事故で整形外科と整骨院の同時通院は可能?

「今は痛みがないから」と事故直後の通院を怠る人もしばしば見受けられますが、万が一のことを考えるとこれは絶対にお勧めできません。
人身事故に遭ったときには、すぐに医師の診察を受けましょう。

(2) 一貫した症状が続いていることを証明する

後遺障害が認められるためには、事故後に一貫して同じ症状が続いていることが重要です。

したがって、カルテに「事故当初は右頸部の痛みを訴えていたが、その後は肩の痺れのみを訴えていた」「事故後3ヶ月には症状を訴えることはなくなった」などという記載があるときには、等級認定に不利になってしまいます。

医師には、実際に感じている自覚症状を「正しく」「わかりやすく」伝え、きちんとカルテに記載してもらう必要があります。

痛みやしびれがあるのに「首がだるい」「肩がこる・重たい」といった言葉で伝えてしまうと、重いむち打ち症があることがカルテに記載されない可能性もあります。
ありもしない症状を伝えることは問題ですが、実際に感じている症状は、遠慮せずにはっきりと伝えることが大切です。

なお、医師にとって「確かにそういう症状があってもおかしくない」と感じさせられる資料も揃えておくと有効な場合があります。
「事故でへこんだ自動車の写真」などがあれば、交通事故の衝撃の大きさを医師に伝えられるので、画像診断できない場合でもこちらに有利な記載をしてもらえる可能性があります。

(3) 後遺障害等級認定を保険会社に任せない

交通事故の後遺障害認定は「書面審査」で行われます。特に「医学的他覚所見がないむち打ち」の後遺障害を認めてもらうためには、認定申請の際に提出する資料の質が非常に重要です。

後遺障害等級認定の方法には、「事前認定」と「被害者請求」の2つの方法があります。

「事前認定(加害者請求)」は、交通事故の相手方が加入している保険会社に認定等級に必要な資料の収集・提出を任せる方法です。
資料収集の手間がないというメリットがありますが、「どのような資料を提出したのかが分からない」デメリットもあります。

事前認定を任せると、医学的他覚所見がないむち打ちの場合には、14級の認定を受けられるための必要な資料を積極的に収集してもらえない可能性があります。

よって、医学的他覚所見がないむち打ちは事前認定では非該当となる可能性が高いといえます。
被害者請求により、必要な書類をご自身で準備して認定申請をすることがお勧めです。

[参考記事]

被害者請求はどのように行うのか?開始の手順と準備するべき書類

(4) 早めに弁護士に相談・依頼する

上記の通り、医学的他覚所見がないむち打ちで後遺障害等級(14級)の認定を受けるためには、「被害者請求」を行った方が良いです。

しかし、MRIやCT・レントゲンといった画像によって確認できないときに、後遺症が認められる程度の症状があることを客観的に明らかにすることは、簡単ではありません。

それぞれの自覚症状に応じて、受けるべき検査や、カルテや診断書に記載してもらうべき事項も異なるため、専門知識がない方が1人で資料収集を行うことは難しい場合が多いでしょう。

自覚症状があったとしても、「等級認定を受けられるだけの資料」を用意できなければ、非該当となってしまいます。

交通事故の損害賠償実務に精通した弁護士事務所であれば、むち打ちの後遺障害認定のためのノウハウが蓄積されています。
被害者請求のための書類集めをサポートしてくれるだけでなく、医師の診断書の内容を確認し、より確実に後遺障害認定を受けられるようアドバイスしてくれるでしょう。

5.まとめ

交通事故でむち打ちとなる人は少なくありませんが、後遺障害を認めてもらうことは実は簡単ではありません。

むち打ちで後遺障害認定を受ける際には、交通事故案件の実績が豊富な弁護士事務所に依頼するのが一番です。

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