むち打ち [公開日]2018年8月1日[更新日]2021年4月7日

むち打ちの慰謝料|計算表で金額相場が一目で分かる!

むち打ち」は、交通事故(追突事故)において最も多い怪我です。

しかし、その痛みや辛さが外部からは分かりにくいため、「慰謝料をいくらと評価するべきか」が難しく、被害者が思っているよりも低額の慰謝料を保険会社から提示されてしまうという問題があります。
知恵袋などでも、「提示された金額が思ったより少ないです」という相談を見かけたことがある方がいらっしゃるかもしれません。

ここでは、むち打ちになってしまった場合、いくらの入通院慰謝料を受け取れるのか、計算方法はあるのか、相場はどれくらいなのか、などについて解説します。

1.慰謝料とは?

「慰謝料」とは、簡単に言うと精神的損害を慰めるものです。
交通事故によって怪我をして、入通院を余儀なくされたことに関する精神的損害(怪我による苦痛)を補うものを「入通院慰謝料(傷害慰謝料)」といいます。

入通院慰謝料が認められる理由として、次のものが指摘されています(※1)。

  • 怪我による肉体的な苦痛があること
  • 入院、通院を余儀なくされ、行動の自由を制約された苦痛があること
  • 検査や治療行為を受ける苦痛や煩わしさがあること
  • 仕事、勉強、社会活動への参加などが制約された苦痛があること
  • 家族や同僚への気兼ね、仕事や昇進への影響の心配などの心理的な圧迫による苦痛があること

怪我により受ける精神的苦痛・肉体的苦痛は、ここに書ききれるものではありませんが、そのような各種の苦痛を慰謝するものとして慰謝料が認められているのです。

【後遺障害慰謝料とは?(症状固定後)】
慰謝料は、治療によって怪我が治癒した場合のみならず、治療によって怪我が治癒しなかった(後遺障害が残った)場合にも認められます。
自賠責で定められた後遺障害が認定された場合は、後遺障害慰謝料というものが認められます(もちろん、入通院慰謝料も別に請求できます)。症状固定(それ以上治療をしても怪我が回復しないとされる段階)までの慰謝料が入通院慰謝料であり、症状固定後の慰謝料が後遺障害慰謝料ということです。
この記事では、入通院慰謝料に特化して解説をしますので、むち打ちの後遺障害について詳しく知りたい方は、以下のコラムをご覧ください。
参考:交通事故の後遺障害慰謝料の相場はいくら?

(※1)「三訂版注解・交通事故損害賠償算定基準-実務上の争点と理論-(上)損害額算定・損害の填補編」損害賠償算定基準研究会編、株式会社ぎょうせい発行、360頁)

2.慰謝料の計算基準

交通事故の傷害に限らず、本来、慰謝料は「精神的損害」のため、いくらが適正なのかという客観的な基準は存在しません。

しかし、交通事故は数多く発生するので、効率的かつ公正に処理するためには、何らかの平均・基準が必要となります。
このため、交通事故の慰謝料には相場となる基準が定められています。

その基準というのが、①自賠責基準、②任意保険会社基準、③弁護士基準(裁判基準)で、いずれも入通院期間を指標としています。

(1) 自賠責基準

自賠責基準は、自賠責保険の賠償基準を定めたものです。
あくまで自賠責保険から支払われる金額を計算する基準に過ぎません。

なお、自賠責保険では、傷害の損害賠償額は、慰謝料も含めて120万円が上限であり、それ以上は支払われません(自動車損害賠償保障法施行令第2条1項)。

(2) 任意保険会社基準

任意保険会社基準と言われるものは、各保険会社が自社の内部基準として用いている数字です。

自賠責基準よりも高額になるようですが、次に説明する弁護士基準(裁判基準)よりは遥かに低額であることがほとんどです。

任意保険会社との示談交渉にあたっては、保険会社はこの基準で計算した金額を提示してくるでしょう。

(3) 弁護士基準(裁判基準)

裁判実務で用いられているものが「弁護士基準」とか「裁判基準」と呼ばれる基準です。
通常、上の2つの基準よりも高額になり、被害者が弁護士に示談交渉を依頼した時にのみ反映できる基準と言えます。

交通事故の慰謝料は、弁護士基準の計算で大きく増額!

[参考記事]

交通事故の慰謝料は、弁護士基準の計算で大きく増額!

3.むち打ちの慰謝料の計算方法

では実際に、むち打ちの入通院慰謝料の計算方法について見ていきましょう。

入通院慰謝料の金額を算出する基準となるのは、入通院期間、すなわち治療のために入院した期間と通院した期間の長さや実治療日数です。
入通院の期間が長かったり、実際に治療を施した日数が多いということは、それだけ症状も重いわけで、精神的苦痛もその分重くなると考えられているのです。

(1) 自賠責基準

自賠責基準での入通院慰謝料は、1日につき4,300円として計算し、対象となる日数は、「被害者の傷害の態様、実治療日数その他を勘案して治療期間の範囲内とする」とされています(※2)。

実際の運用としては、対象日数は、総治療期間の範囲内で、実治療日数の2倍程度とされています。

つまり、対象日数は実際に入院・通院した日数の2倍ですが、その数字が総治療期間を超えてしまうときは、総治療期間が日数となります。

  • 4,300円×実通院日数×2
  • 4,300円×総治療期間
    (※どちらか少ない方を採用)

例えば、総治療期間250日で、実通院日数90日の場合、「4,300円×90×2=774,000」となります。

(※2)「自動車損害賠償責任保険の保険金等及び自動車損害賠償責任共済の共済金等の支払基準」平成13年金融庁・国土交通省告示第1号・平成14年4月1日施行

(2) 弁護士基準

まず、弁護士基準では、むち打ちを「他覚症状(他覚所見)のあるもの」と「自覚症状だけのもの」に分け、別々の基準を適用しています。

他覚症状とは、医師がその症状を客観的に認識できる症状のことです。
自覚症状とは、患者本人にしか分からない症状のことです。

他覚症状は、レントゲンやMRIなどの画像で客観的に疾患を認識することができる場合だけでなく、医学的な見地から医師が異常を認識できる場合も含みます。

例えば、追突事故などによるむち打ちの原因となる末梢神経の障害は、筋肉の萎縮や筋力、握力の衰えを招来しますので、これらの症状を確認できれば、他覚的な症状があると言えます。

逆に、医師が画像や医学的見地から異常を認識することができず、本人が症状を訴えているだけである場合が、自覚症状だけのむち打ちです。

①他覚症状のあるむち打ちの慰謝料

他覚症状のあるむち打ちの慰謝料の算定は、むち打ち以外の傷害を含む入通院慰謝料の基準が用いられます。
「民事交通事故訴訟・損害賠償額算定基準(財団法人日弁連交通事故相談センター東京支部編集発行)」、通称「赤い本」の「入通院慰謝料・別表Ⅰ」がそれです。

赤本別表Ⅰ

この計算表は、横軸に入院期間、縦軸に通院期間が示されています。
計算表を用いると、以下のように計算できます。

  • 1ヶ月入院し、退院後は通院する必要がなかった場合:53万円
  • 入院する必要がなく4ヶ月間通院しただけの場合:90万円
  • 1ヶ月入院し、退院後4ヶ月通院した場合:130万円
  • 6ヶ月入院し、退院後13ヶ月通院した場合:300万円
むち打ち症で3ヶ月・6ヶ月

[参考記事]

むち打ち症で3ヶ月・6ヶ月通院した場合の通院慰謝料比較

【通院期間ではなく、実通院日数を尺度とする例外的な場合】
赤い本では、通院の「期間」を尺度として、別表Ⅰを適用することが原則です。
しかし、例外もあります。「通院が長期にわたる場合は、症状、治療内容、通院頻度をふまえ実通院日数の3.5倍程度を慰謝料算定のための通院期間の目安とすることもある」とされます。
詳しくは以下の記事を参照いただくか、弁護士にお尋ねください。
基礎知識:通院状況で減額される弁護士基準の入通院慰謝料

②自覚症状だけのむち打ちの慰謝料

自覚症状だけの(医学的他覚所見がない)むち打ちについては、「赤い本」では、入通院慰謝料別表Ⅱが基準となります。

別表Ⅱは、別表Ⅰと比べて金額が安く設定されています。例えば、通院1か月は、別表Ⅰでは28万円ですが、別表Ⅱでは19万円です。

「赤い本」別表Ⅱ

「自覚症状のないむち打ち」の態様は様々ですが、一般的には、1ヶ月〜3ヶ月程度で治癒するものと評価されています。

「外傷性頭頸部症候群とは(中略)、衝撃の程度が軽度で損傷が頸部軟部組織(筋肉、靱帯、自律神経など)にとどまっている場合には、入院安静を要するとしても長期間にわたる必要はなく、その後は多少の自覚症状があっても日常生活に復帰させたうえ適切な治療を施せば、ほとんど1か月以内、長くとも2、3か月以内に通常の生活に戻ることができるのが一般である。」(前出の最高裁昭和63年4月21日判決)

自覚症状しかないむち打ち症であっても、真実のむち打ち症が存在していることは疑いありません。その苦しさは、他覚症状がある場合と変わらないはずです。

しかし、法律論としては損害賠償における「損害」を立証する責任は被害者にあります。
むち打ちの症状は、「損害」であり、その原因が交通事故にあることは被害者側が証明しなくてはならないのです。

そうである以上、自覚症状だけのむち打ちの場合、他覚症状がある場合に比べて控えめな算定をせざるを得ない事情があります。

なお、自覚症状しかないむち打ち症で別表Ⅱを用いる場合も、別表Ⅰと同様に、実通院日数を尺度とする例外的な場合が定められています。

【弁護士基準は事案の詳細な事情により増減する】
ここで定められる基準の数値は絶対のものではありません。実務では、基準を前提としつつも、事案の個性に応じて金額が増減されます。
「赤い本」では、「被害者が幼児を持つ母親であったり仕事等の都合など被害者側の事情により特に入院期間を短縮したと認められる場合には、上記金額を増額することがある」と記載しています。
つまり、入院通院の期間を大尺度としながらも、それが必ずしも傷害の深刻さを反映していない場合があることを認め、そのような場合にはこの基準にとらわれずに金額を増額するべきだと当たり前のことを言っているのです。
むち打ちの治療を医師に委ねるように、交通事故のむち打ちの慰謝料額の判断は専門家である弁護士に相談するべきです。

4.むち打ちで治療中、困ったら弁護士へ相談を

むち打ちは、交通事故で最も起こりやすい怪我にも関わらず、他覚所見がないことが多く、慰謝料の算出についても非常に複雑です。

交通事故に遭ってしまい、身体に痛みがある、通院している、通院が長引いている、提示された慰謝料が少ないため不満を抱えている方は、お早めに弁護士にご相談ください。

泉総合法律事務所の弁護士は、解決実績が豊富にあります。
むち打ちになってしまった被害者の方が正当な額の賠償金を獲得できるようサポートした経験も多くございますので、どうぞ安心してご相談ください。

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