交通事故裁判 [公開日]2020年11月4日

人身事故の加害者が不起訴になるケースとは?

交通事故で被害者が死亡した場合や深刻なケガを負ってしまった場合などには、被害者(またはその遺族)としては、加害者に対して強い処罰感情を抱くことでしょう。

しかし、人身事故のケースでも、場合によっては加害者が不起訴となることもあります。
不起訴になってしまうと、加害者に対してそれ以上罪を問うことはできません。

加害者を起訴するかどうかは検察官の判断なので、被害者ができることは限られています。

それでも、検察官に処罰感情をアピールすることによって、ある程度検察官の判断に影響を与えられる場合もありますので、弁護士に相談しながら適切に対応しましょう。

この記事では、人身事故で加害者が不起訴になるケースについて解説します。

1.「不起訴」になるとどうなる?

一般的に、刑事事件の加害者に対しては、検察官が起訴・不起訴の判断を行うことになります。

加害者が起訴された場合には、原則として公判手続きの中で、有罪か無罪か、および量刑が争われます(例外的に、公判によらない略式起訴が行われる場合もあります)。

一方、加害者が不起訴になった場合はどうなるのでしょうか。

(1) 刑事罰に問われることはなくなる

検察官の判断で加害者が不起訴処分となった場合、同じ事件について加害者を改めて起訴することはできなくなります

加害者に対して懲役刑・禁錮刑・罰金刑などの刑事処分を課すためには、加害者を起訴して刑事手続きにかける必要があります。

したがって、加害者が不起訴処分となった場合には、刑事手続きを続ける道が断たれるため、もはや加害者に対して刑事罰を科すことはできないのです。

[参考記事]

交通事故の加害者に科される刑事罰の内容

(2) 行政処分や民事賠償とは別物

加害者が不起訴になるというのは、あくまでも刑事手続きとの関係での話であって、行政処分民事賠償についてはそれぞれの手続きに則って行われることになります。

つまり、刑事手続きで不起訴になったとしても、交通違反で累積している免許の違反点数が取り消しになるわけではなく、また被害者は加害者に対して引き続き損害賠償請求を行うことができます。

人身事故の刑事責任・民事責任・行政責任の違い

[参考記事]

人身事故の刑事責任・民事責任・行政責任の違い

2.人身事故で加害者が不起訴になるケース

交通事故で被害者が死亡またはケガをする人身事故のケースでも、加害者が不起訴になることはあり得ます。

刑事訴訟法247条は「公訴は、検察官がこれを行う。」と定めて、検察官に独占的に訴追する権限を与えています(起訴独占主義)。

その上で、刑事訴訟法248条は、検察官に起訴・不起訴についての裁量を認めています(起訴便宜主義)。つまり、加害者がたとえどんな罪を犯した場合であっても、検察官には「起訴しない」という判断をする権限が常に与えられているのです。

そのため人身事故のケースでも、検察官の判断次第では、加害者が不起訴になることにもあります。

刑事訴訟法248条では、検察官が加害者について公訴を提起しないことができる場合について、

  • 犯人の性格
  • 年齢および境遇
  • 犯罪の軽重
  • 犯罪後の情況

により、訴追を必要としないときと定めています。

これらを踏まえると、人身事故のケースで加害者が不起訴になりやすいパターンの例としては、以下に挙げるものが考えられます。

(1) 被害者のケガが軽微

交通事故によって被害者がケガをした場合、加害者には「過失運転致傷罪」という犯罪が成立します(自動車運転処罰法5条)。

しかし、被害者のケガの程度が軽微な場合は、加害者の犯した罪がそれほど重いとはいえません。
また、危険運転があったケースなどを除けば、交通事故は過失行為によるものであって、そもそも加害者を強く責めることが難しい側面もあります。

こうした事情から、被害者のケガが軽微な人身事故のケースでは、多くの場合加害者は不起訴となります。

(2) 加害者にそれほど大きな過失が認められない

交通事故には、加害者に100%の責任があるというケースばかりではなく、被害者にも2割、3割などの一定の過失が存在する場合もあります。

被害者に過失があるからといって、加害者の過失が全く否定されるというものではありませんが、加害者に対する可罰性が一定程度減少することは間違いありません。

そのため、被害者にも過失がある「お互い様」の人身事故については、加害者が不起訴となる可能性は高くなります。

(3) 加害者が事故後の救護活動を適切に行った

加害者が被害者に対して人身事故でケガを負わせてしまった直後に、すぐに車を降りて被害者の救護に着手し、適切な処置を行った場合には、加害者側に被害回復に向けた努力が認められます。

この場合、加害者が罪を犯した事実に変わりはありませんが、事故後の加害者の行動までトータルで考えると、刑事罰を科すほどに加害者を責めるべきかどうかについては疑念が生じるでしょう。

このように、加害者が事故後の救護活動を適切に行ったケースでは、加害者に対する可罰性が減少し、不起訴になる可能性が高まります。

(4) 加害者が十分に反省している

加害者が人身事故を起こしてしまったことについて、自らの責任を痛感して反省しているかどうかも、刑事処分の内容を決定するうえでの情状に関する事実として重要になります。

加害者が十分に反省している場合には、刑事罰を科して反省を促す必要性が減少し、不起訴の判断に繋がりやすくなります。

(5) 被害者との間に示談が成立している

被害者が加害者に対して強い処罰感情を抱いている場合、検察官が加害者に対して刑事処分を科すべきと判断する傾向にあります。

逆に、被害者が加害者を赦している場合、特に被害者と加害者の間に示談が成立している場合には、被害感情はある程度整理がついているものと解釈され、起訴の必要性が弱まります。

したがって、被害者と加害者の間に示談が成立している場合には、加害者が不起訴となる可能性が高いでしょう。

【死亡事故の場合は不起訴になりにくい】
人身事故で被害者が死亡してしまった場合、加害者の行為により発生した結果自体がきわめて重大といえます。
この場合、救護活動・反省・示談などの事情が存在していたとしても、被害結果自体の重大性を考慮して、検察官が加害者を起訴する可能性が非常に高いです。

3.加害者を不起訴にしたくない被害者ができること

人身事故の被害者が加害者に対して刑事処分を望む場合、検察官に起訴を求めたい場合には、「刑事告訴をする」「捜査機関に対して厳罰を望む旨を伝える」「示談に応じない」などの方法があります。

重要なのは、捜査機関に対して、被害者としての強い処罰感情を伝えるということです。

その際、単に感情を吐き出すだけでなく、被害の内容や事故当時に受けた精神的なショックなどを理路整然と伝えることで、検察官の中で起訴に関する合理的な説明が付きやすくなります。

自分で捜査機関とコミュニケーションを取るハードルが高く感じるという場合は、弁護士にご相談ください。

なお、交通事故の被害者が加害者に対して処罰を求めたい場合の対処法については、以下の記事も併せてご参照ください。

[参考記事]

交通事故の加害者に科される刑事罰の内容

4.不起訴になると加害者・被害者のもとに通知は来る?

加害者が不起訴になった場合、その旨は加害者および被害者に通知されます。

最後に、この通知についてご説明します。

(1) 加害者には「不起訴処分告知書」が交付

加害者が身柄拘束をされている場合は、不起訴に伴って身柄が解放されるため、その時点で自分が不起訴になったことが分かります。

これに対して在宅捜査の場合には、捜査機関から加害者に対して、不起訴処分になったことが電話などで伝えられます(代理人弁護士がいる場合は、弁護士に対して連絡が入ります)。

不起訴になった加害者は、検察庁で手続きを取ることにより、「不起訴処分告知書」を取得することができます。

(2) 被害者には「被害者等通知制度」により通知

一方被害者については、実務上の運用として採用されている「被害者等通知制度」に基づき、捜査機関から不起訴の旨が通知されます。
(参考:「被害者等通知制度実施要領」(法務省))

被害者等通知制度により、被害者は、検察官からの取り調べを受けた際に、加害者についての事件処理の結果の通知を希望するかどうかを質問されます。

そこで通知を希望すると、後日検察官により起訴・不起訴の判断が行われた際に、検察庁から処分結果が通知されます。

また、被害者または代理人弁護士が特に要望する場合には、不起訴裁定の主文・不起訴裁定理由の骨子などについても通知を受けられることがあります。

5.まとめ

交通事故の被害に遭った場合、加害者への処罰感情が高まってしまうのは無理もないことです。

刑事処罰を望むお気持ちはよく理解できますが、起訴・不起訴の判断は検察官の専権事項なので、被害者としてできることは限られています。

しかし、民事賠償を請求することにより、別の形で加害者に対して償いを求めることは可能です。
特に被害者が亡くなってしまったり、後遺障害を負ってしまったりした場合には、賠償金は非常に高額になる可能性が高くなります。

加害者側との示談交渉や民事訴訟の場で、被害の実態について適切な立証を行うことが、正当な損害賠償を受けることに繋がります。

交通事故の被害に遭ってしまった方は、お一人で悩むことなく、お早めに弁護士にご相談ください。

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