後遺障害 [公開日]2018年3月1日[更新日]2021年5月20日

交通事故が原因のうつ病・PTSDの後遺障害認定。等級・慰謝料は?

交通事故での受傷の多くは身体への外傷です。しかし、交通事故で経験した恐怖体験がきっかけで精神的ダメージ(こころの傷)を負ってしまうケースも珍しくありません。

交通事故によるストレス障害としては、いわゆるPTSDがよく知られています。また、痛みに長期間悩まされることでうつ病を発症することもあります。
これらの心的外傷を後遺障害として認めてもらうためには、医学と後遺障害に関する専門的な知識が不可欠と言えます。

今回は、交通事故によるPTSDやうつ病について、後遺障害と認められ得る症状や等級認定方法を解説します。

1.交通事故によるストレス障害の種類

交通事故を原因とするこころの傷(専門的には「非器質性精神障害」と呼びます)は、さまざまな症状があります。

中でも、うつ病やPTSDが広く知られています。

(1) PTSD(心的外傷後ストレス障害)

PTSDとは、「Post Traumatic Stress Disorder」の略語で、「心的外傷後ストレス障害」と邦訳されることが一般的です。
阪神大震災や東日本大震災では、多くの方がPTSDに苦しめられたことをご存じの方も多いと思います。

交通事故の場合にも、事故の強いショック体験や事故後の精神的ストレスによって、事故から時間が経過してもなお、事故体験に対して強い恐れを感じる場合があります。

たとえば、交通事故から時間が経過した後でも、街を歩いている時に交通事故に遭ったときの恐怖感を思い出す(フラッシュバック・再体験症状)、不眠や神経過敏の常態となる(過覚醒症状)、無意識のうちに車通りの多い通りや交差点を避けてしまう(回避症状)、恐怖の記憶が原因で他人への関心が希薄となる(マヒ症状)、交通事故後の運転が怖い、といったことがありえます。

以上のような症状が何ヶ月も続く時は、PTSDが疑われます。

(2) うつ病

うつ病は、脳の機能障害とも言える病気です。
神経伝達に必要なエネルギーが不足するために、「憂うつな気分が続く」「やる気が起きない」「倦怠感」「食欲不振」「睡眠障害」「頭痛」といった症状が続きます。

PTSDをはじめとする「不安障害」とうつ病は、一般の方には区別しづらいのですが、医学上は区別されています。

しかし、不安障害が原因でうつ病を発症することは少なくありません。実際、不安障害とうつ病を併発している方は多くいます。

2.「こころの傷」の後遺障害等級

交通事故被害に遭ったときには、擦り傷・骨折などの外傷だけでなく、PSTDやうつ病などの心的外傷に対する補償も受けることもできます。

しかし、PTSDやうつ病について後遺障害認定を受けることは、決して簡単な作業とは言えません。

まずは、交通事故によるこころの傷が、後遺障害においてどの等級に当てはまる可能性があるのかを見ていきます。

(1) 後遺障害の認定基準

PTSDやうつ病といった障害で後遺障害の認定を受けるためには、「労災の障害等級認定基準」(平成15年8月8日厚生労働省労働基準局通達)を参考に、労災の認定基準と同等の基準に該当する必要があります。
交通事故の後遺障害認定実務では、この労災基準を参考とし、後遺障害認定業務が行われることが一般的だからです。

この労災基準の内容を簡単にまとめると、下の表のようになります。

精神症状 判断項目
下記のうち1つ以上が認められる

  • 抑うつ状態
  • 不安の状態
  • 意欲低下の状態
  • 慢性化した幻覚・妄想性の状態
  • 記憶または知的能力の障害
  • その他の障害
    (侵入、回避、過覚醒、感情麻痺など)
左の精神症状に加え、下記の1つ以上について
能力の欠如や低下が認められる

  • 日常生活における身の回りの世話
  • 仕事・生活に積極性・関心を持つこと
  • 通勤・勤務時間の厳守
  • 普通に作業を持続すること
  • 他人との意思伝達
  • 対人関係・協調性
  • 身辺の安全保持、危機の回避
  • 困難・失敗への対応

後遺障害の認定を受けるためには、「精神状況」と「判断項目」のいずれにも該当しなければならない点に注意が必要です。

つまり、「抑うつ状態」や「意欲低下」の症状があっても、それが「出社時間を守れなくなった」「就業規則通りに働くことが難しくなった」「職場の同僚や上司とのコミュニケーションが難しくなった」という具体的な問題(労働能力の喪失)に結びついていなければ、後遺障害の認定は受けられないのです。

(2) 認定される等級

「労災の障害等級認定基準」によれば、PTSDやうつ病といった非器質性精神障害(脳の外傷を伴わない障害)は、症状の程度に応じて、下の表のような障害等級の認定となります。

症状の程度 就労の有無 等級
就労している者又は就労の意欲のある者 就労意欲の低下又は欠落により就労していない者
通常の労務に服することはできるが、非器質性精神障害のため、就労可能な職種が相当な程度に制限されるもの 判断項目の4つ以上についてしばしば助言・援助が必要と判断される障害を残しているもの 身辺日常生活について時に助言・援助を必要とする程度の障害が残存しているもの 9級
通常の労務に服することはできるが、非器質性精神障害のため、多少の障害を残すもの 判断項目の4つ以上について時に助言・援助が必要と判断される障害を残しているもの 身辺日常生活を適切または概ねできるもの 12 級
通常の労務に服することはできるが、非器質性精神障害のため、軽微な障害を残すもの 判断項目の1つ以上について時に助言・援助が必要と判断される障害を残しているもの 14 級

それぞれの症状の具体例は、下記の通りです。

  • 9級:「対人業務につけない」などの「職種制限」が生じるケース
  • 12級:職種制限は認められないが、就労に当たりかなりの配慮が必要であるケース
  • 14級:職種制限は認められないが、就労に当たり多少の配慮が必要であるケース

等級ごとの後遺障害慰謝料相場については、以下のコラムをご覧ください。

[参考記事]

交通事故の後遺障害慰謝料の相場はいくら?

3.後遺障害認定を受ける際の注意点

心的外傷の場合、その外傷が目に見えるものではないため、後遺障害認定をめぐって訴訟までもつれることも少なくありません。

PTSD・うつ病で後遺障害認定を受ける際、身体的外傷にはない難点・注意点がありますので、ここでご説明します。

(1) 専門医による適切な診断が必須

交通事故で負ったのが外傷であれば、その怪我の程度を目で見て判断したり、レントゲンで確認したりすることができます。また、身体的な労働能力喪失であれば、筋力テスト・聴力検査といった手法で明確に判定することが可能です。

しかし、PTSDやうつ病は「目で見る」ことや「客観的な検査での判断」になじまない症状です。
そのため、PTSDやうつ病などの後遺障害認定を受けるためには、専門の精神科医による診断と、適切な診断書の作成が必須と言えます。

たとえば、PTSDは、DSM-ⅣやICD-10と呼ばれる診断基準によって判定することが一般的です。
前者はAPA(アメリカ精神医学会)が、後者はWHO(世界保健機関)が採用している診断基準です。

特に後遺障害慰謝料請求の場面では、専門医が適切十分な治療をしたにも関わらず「回復の見込みなし」と診断しているかどうかが大きなポイントになります。
そのためにも、交通事故や心的外傷に精通した医者を選び、定期的な通院を心がけることが大切です。

(2) 症状固定の判断が難しい

後遺障害慰謝料は、症状固定(これ以上治療を継続しても症状改善が見込まれない状態)以後も残る症状によって発生する「精神的苦痛に対する補償」です。
実は、PTSDやうつ病のケースでは、この「症状固定」の判断も難しい場合が少なくありません。

「症状固定がいつか」という問題は、加害者との示談交渉でとても重要な要素です。

非器質性精神障害は、カウンセリングや投薬によって、「適切で十分な治療」を行えば、「半年から1年、長いケースでも2~3年で完治し後遺障害を残すことは少ない」というのが、専門家での一般認識となっています。

しかし、多くの加害者(加害者側保険会社)は早期の症状固定を求めてきます。というのも、その方が賠償額を抑えられることが多いからです。

症状固定の判断は医学的な見地に基づいてなされるべきですが、担当医が損害賠償実務に明るくない場合もあります。

保険会社から早期の症状固定を求められてご不安なときには、交通事故案件に強い弁護士事務所に相談されると良いでしょう。

(3) 因果関係の認定が難しい

うつ病・PTSDで後遺障害の認定を受ける際に最も難しい論点は、事故と症状との因果関係です。

交通事故による損害賠償は、当然のことですが「交通事故を原因」とする損害に限られます。

類似の交通事故でも、PTSDになる被害者もいればならない人もいます。また、事故直後からフラッシュバックが起こる人もいれば、数ヶ月が経過してから症状を自覚する被害者もいます。

このように、交通事故が遭えば「必ずPTSDになる」というわけではありません。
そのため、非器質性精神障害の慰謝料請求では、医師から後遺症有りの診断を得られた場合でも、因果関係をめぐって訴訟で争われることも少なくありません。

次のような場合には、因果関係の判断で不利となる可能性があります。

  • 家族関係・会社関係・他の既往症が原因ですでにうつ状態にあった場合
  • 被害者の元来の性格が症状に影響していると思われる場合
  • 治療開始が加害者に責めのある理由で遅れた場合(早期に専門医の治療を受けることが重要です)

損害賠償をめぐる交渉が訴訟までもつれたときには、被告側の抗弁(反論)に対応できる主張をその都度していく必要があります。
「交通事故以外に精神症状の原因がない」ということを、過去の裁判例を参考にしながら逐一立証していかなければなりません。

そのためには、交通事故問題を数多く取り扱ってきた弁護士の支援が必須と言えます。

4.事故後のストレス・ショックでお悩みの方へ

後遺障害の補償をめぐる交渉は、身体障害・精神障害いずれの場合でも難航することが珍しくありません。
十分な補償を受けるためには、弁護士のサポートが不可欠と言えます。

また、交通事故によるPTSDが疑われるケースでは、加害者側(保険会社)との示談交渉それ自体がストレスとなり、症状の悪化につながるおそれもあります。

交通事故問題の実績が豊富な泉総合法律事務所の弁護士にご相談いただければ、安心してご自身の治療・養生に専念することができます。
どうかお早めに、当事務所の弁護士にご相談・ご依頼ください。

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