人身事故 [公開日]2018年3月12日[更新日]2022年12月15日

加害者に「診断書を警察に提出しないで」と頼まれた!?

交通事故の加害者が、被害者に「診断書を警察に出さないでほしい」「示談金は支払うから、人身事故扱いにしないでほしい」とお願いしてくることがあるようです。

しかし、被害者がこのような加害者の要求に応じてしまい、人身扱いにしないままでいると、様々なデメリットが生じます。
本記事を参考にした上で、加害者に無茶な要求をされても受け入れず、毅然とした態度で対応をするようにしてください。

1.交通事故で診断書を警察に提出する効果

交通事故による怪我について病院で治療し、医師が作成した診断書を警察に提出すると、「人身事故」として交通事故捜査が開始されることになります。
対して、診断書を提出しなければ、交通事故は原則的に「物損(物件事故)」の扱いとなります(事故現場での受傷が明らかである場合を除く)。

警察に診断書を出す・出さないで事故の扱いが大きく変わることになりますが、具体的には以下のような違いが生じます。

(1) 加害者が刑事・行政の処分対象となる

警察に診断書の提出がなされ人身事故の扱いになると、加害者は刑事・行政・民事の3つにおいて処分対象となります(民事処分については物損の扱いでも対象になります)。

人身事故になると、加害者は刑事処分の対象となり、刑事事件の被疑者として過失運転致傷等の罪で捜査されることになります。この捜査により、実況見分調書という事故現場についての詳細な図面が作られることになります。

さらに、加害者は行政処分の対象にもなり、点数によっては反則金の支払いのみならず免許停止や免許取消といった処分を受けることがあります。

最後に、人身・物件問わずですが、加害者は民事処分の対象にもなります。しかし、多くの加害者は任意保険に加入しているため、被害者への賠償(修理費や治療費、入通院慰謝料などの支払い)については保険会社が対応をしてくれるでしょう。

(2) 保険金の請求に必要な交通事故証明書が発行される

警察に診断書を提出すると、申請することで自動車安全運転センターから人身事故の交通事故証明書が発行されます。この交通事故証明書は、自賠責保険・任意保険に保険金の請求をする際に必要となります(発行してもらえない場合は、後述する「人身事故証明書入手不能理由書」などの書類が別途必要になります)。

ただ、先述の通り、交通事故証明書の申請手続きは通常保険会社がやってくれることになっているので、当事者がこれについて自分で行う必要はありません。

[参考記事]

交通事故の診断書の役割とは?

2.被害者が診断書を提出しないデメリット

このように、診断書を各機関に提出して人身事故とすることにより様々な効力が生じます。
しかし、加害者からしたら刑事処分や行政処分は避けたいもので、「物損で処理してほしい」「診断書を出さないでほしい」「人身事故の届出を取り下げてほしい」などと被害者に頼んでくることもあるようです。

しかし、弁護士の立場からは、「事故で怪我をしたのであればしっかりと事実に合致した届出をすべき」と被害者の方にご案内しています。
その理由は次の通りです。

(1) 物損事故では損害賠償額が低額になる

「加害者があまりに謝罪してくるからかわいそう…」などと思い診断書を警察に出さなくても、怪我をした事実(医師による診察のうえ、診断書が発行されていること)が明らかであれば、加害者側の任意保険会社は対人賠償の対応をしてくれる可能性はあります。

しかし、万が一怪我が重く後遺症が残ってしまった場合、後遺障害認定の段階で、認定機関に「物損の届出しか出ていない程度の怪我でしょう」という判断をされてしまうおそれがあります。
こうなると、本来受け取れるはずの賠償金を満足に得られない可能性が高いです。

一方で、人身事故の届出がない場合(診断書の記載などから事故との因果関係を証明できなければ)自賠責はあくまで物損事故として処理をするため、人身事故ならば請求できるはずの損害賠償(治療費など)が支払われないことになります。

(2) 実況見分調書が手に入らない

人身事故では、実況見分と言われる現場検証が行われます。この実況見分に基づき事故の日時や目撃者の証言、事故状況の写真などを詳細にまとめた実況見分調書が作成されることになります。

もし、加害者側と裁判となり、主張に食い違いが生じたときに、この実況見分調書は事故状況の証明に大きく役立つ資料となります。
特に、交通事故では互いの過失割合が争点となることが多く、被害者が自分の主張を証明するために欠かせない資料が実況見分調書なのです。

したがって、特に加害者側の言い分から過失割合の争いが想定されるときには、安易に届出を物損のままにしておくことは被害者側として極めてリスクがあると言えるでしょう。

[参考記事]

交通事故の現場検証|すること・してはいけないこと・注意点は?

(3) 加害者側任意保険会社に一括対応をしてもらえない

加害者が任意保険会社に加入していれば、送付されてきた同意書にサインをして返送するだけで、病院での治療費などを任意保険会社が支払ってくれる「一括対応」といわれるサービスを利用することができます。
任意保険会社は同意書に基づいて病院から診断書などを取得することができるので、診断書の提出も不要です。

この一括対応は、任意保険会社が当該事故を人身事故として扱うからこそ受けられるサービスです。
もし一括対応がなければ、治療費などは一旦被害者が立て替えて、任意保険会社に後日請求をするという負担が発生するでしょう。

さらに、加害者が任意保険に加入していなければ、被害者は加害者側の自賠責保険に診断書など必要書類を揃えて直接保険金を請求しなければなりません。
このようなケースで物件事故の場合だと、「人身事故証明書入手不能理由書」を付さなければなりません。

[参考記事]

人身事故証明書入手不能理由書とは?人身事故への切り替えは早急に!

このように、人身事故を物損事故として処理することに被害者側のメリットは存在しないと言えます。

【被害者にも過失があり加害者も怪我をしていれば例外】
少し事情が違うのが、被害者側にも過失があり、加害者も怪我をしているケースです。この場合には、両者互いに怪我をさせ合ったということになり、被害者側(過失が少ない方)も治療費等の民事上の賠償責任が生じ、さらに、刑事処分や行政処分の対象になる可能性もあります。
このようなケースでは、諸事情を勘案して届出の種別を決定すべきでしょう。
ただし、過失割合の争いがあったり、被害者の過失が相当程度低かったりすれば、原則通り人身事故として届出すべきです。

3.人身事故への切り替えが認められる日数や期限

交通事故の怪我は、事故後2~3日経過してから初めて痛みやしびれなどの症状が現れることが往往にしてあります。事故当日は興奮もあって症状が感じにくいことも多いです。

この場合、「怪我はしていないし、物損の事故だろう」と思い、警察へ物損で届け出ているかと思いますが、後から症状が現れたならばできるだけ早く人身に切り替える必要があります。

事故から切り替えまでの日数や期限などについては、警察署によってかなり運用が異なっているようで、特に定めはありません。
過去の事例では、事故から6ヶ月程度経ってからでも切り替えに応じてくれた警察署があったようですが、これはごく稀なケースです。一般的には10日ほど、長くても2~3週間程度と理解しておくべきでしょう。

また、警察に切り替えをしたい旨を連絡すると、「加害者と一緒に警察署に来てください」など、実現が難しい課題を科されることがあります。
この場合、連絡しても加害者が一緒に来ないようであれば、被害者一人ででも警察署へ行くべきです。

原則的には、痛みがなくても事故直後から病院にかかり、診断書をすぐに警察に提出し人身事故扱いにしてもらうのが一番です。

[参考記事]

物損事故から人身事故への切り替え注意点!手続方法・期限など

4.交通事故の診断書に関するよくある質問

  • 交通事故の診断書はなぜ必要なの?

    交通事故による怪我について病院で治療し、医師が作成した診断書を警察に提出すると、「人身事故」として交通事故捜査が開始されることになります。

    人身事故の届出がない場合(診断書の記載などから事故との因果関係を証明できなければ)自賠責はあくまで物損事故として処理をするため、人身事故ならば請求できるはずの損害賠償(治療費など)が支払われないことになります。

    また、万が一怪我が重く後遺症が残ってしまった場合、後遺障害認定の段階で、認定機関に「物損の届出しか出ていない程度の怪我でしょう」という判断をされてしまうおそれがあります。
    こうなると、本来受け取れるはずの賠償金を満足に得られない可能性が高いです。

    さらに、物損事故では実況見分と言われる現場検証が行われないため、実況見分調書が作成されません。もし、加害者側と裁判となり、主張に食い違いが生じたときに、実況見分調書がなければ事故状況の証明ができず、不利になってしまう可能性があります。

  • 交通事故の診断書はいつまでに警察に提出すればいい?

    原則的には、事故直後から病院にかかり、診断書をすぐに警察に提出し人身事故扱いにしてもらいましょう

    また、事故当初に「怪我はしていないし、物損の事故だろう」と思い、警察へ物損で届け出た場合でも、後から症状が現れたならばできるだけ早く人身に切り替える必要があります。

    事故から診断書提出までの日数や期限などについては、警察署によってかなり運用が異なっているようで、特に定めはありません。
    過去の事例では、事故から6ヶ月程度経ってからでも切り替えに応じてくれた警察署があったようですが、これはごく稀なケースです。一般的には10日ほど、長くても2~3週間程度と理解しておくべきでしょう。

5.加害者側への対応で困ったら弁護士へ相談を

診断書は、事故によって受傷した怪我であること証明することで、後々の損害賠償請求をする際に重要な書類になります。診断書を警察に出さないことのリスクは大きいと言えるでしょう。

なお、もし診断書の記載内容に不安があれば、これについても弁護士に相談することをお勧めします。

泉総合法律事務所は、多くの交通事故を扱ってきた経験・実績を有しており、交通事故に関する知識が豊富な弁護士が多数在籍しています。

交通事故被害によるお悩みは深刻であり、相手方保険会社への対応に長けていないと満足できる結果を得られない可能性があると言えます。
交通事故被害でお困りの際には、経験豊富な当事務所に是非ともご相談ください。初回相談は無料です。

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