逸失利益 [公開日]2018年1月12日[更新日]2021年10月14日

後遺障害・死亡事故の逸失利益の計算例|もらえない原因を解説

逸失利益とは、交通事故の怪我により後遺障害が残ったケースや、事故が原因で死亡したケースなどで認められる、将来の失われた収入のことです。

逸失利益の金額は後遺障害の等級が重いケースや死亡事故のケースでは多額になることが少なくありませんので、「どのようなケースで発生するのか」「もらえない場合の原因は何なのか」「どのように計算するのか」を正しく把握しておくことは非常に重要です。

今回は、交通事故の逸失利益の具体例や計算方法について、わかりやすく解説します。

1.逸失利益とは

逸失利益とは、ひと言で言うと「将来の失われた収入」のことです。

交通事故で逸失利益を請求できるのは、後遺障害が残ったケースと死亡事故のケースです。

後遺障害が残ると、被害者は事故前と比べて身体が不自由になり、労働能力が低下します。
すると、本来よりも収入が減ってしまうと考えられるので、その減収分を「逸失利益」として加害者に請求することができるのです。
【参考】後遺障害認定

また、交通事故で被害者が死亡すると、被害者の収入はゼロになります。そこで、生きていれば得られるはずだった収入を、遺族は逸失利益として加害者に請求することができます。

交通事故の死亡事故における慰謝料・損害賠償金額の相場と計算方法

[参考記事]

交通事故で死亡した場合の慰謝料・保険金|相手が払えない場合は?

逸失利益が発生する期間は、人が通常働ける期間である「就労可能年数」です。
一般的に、就労可能年齢は67歳までとされているので、逸失利益を計算するときには67歳までの分を計算します。

ただし、67歳に近づいている人や67歳を超えている人の場合には、以下のどちらか長い方の期間を就労可能年数とします。

  • 67歳までの年数
  • 平均余命の2分の1

「平均余命」は、「その年齢の人がいつまで生きるのが平均的か」という年数です。よって、平均余命はその人の性別や年齢によって異なってきます。

たとえば、平成29年の男性の平均寿命は81.09歳ですが、50歳の人の平均余命は32.61年です。80歳の人の平均余命は8.95年、90歳の人の平均余命は4.25年となっています。

【参考】主な年齢の平均余命(厚生労働省)

休業損害との違い】
逸失利益と似たものとして休業障害があります。
休業損害とは、交通事故で仕事ができない期間が発生したときに、得られなくなってしまった収入に相当する損害です。
交通事故で入院をしたり体調を崩したりすると、仕事ができない期間が発生します。すると、本来なら働いて得られたはずの収入を得られなくなってしまいます。
このような損害は交通事故がなかったら発生しなかったものですから、交通事故の加害者に賠償請求することができるのです。
休業損害について、詳しくは「休業補償はいつまでもらえるの?交通事故後に仕事ができず不安な方へ」をご覧ください。

2.逸失利益がもらえない人・原因

交通事故が起こったとして、誰でも逸失利益を請求できるわけではありません。
逸失利益は、将来の失われた収入のことですから、逸失利益が発生するためには実際に仕事をして収益を得ていたことが必要です。

たとえば、会社員や自営業者、アルバイトやパートなどで収入がある人が交通事故の被害に遭うと、逸失利益が認められます。

また、専業主婦や主夫などの家事従事者の場合、実際にはお金を得てはいませんが、家事労働には経済的な対価性があると考えられているので、逸失利益が認められます。

子どもや学生にも逸失利益が認められます。子どもや学生は、今は働いていなくても、将来就職して収入を得られる蓋然性が高いと考えられるからです。

さらに、事故当時にたまたま失業していた人も、労働能力及び労働意欲の存在を前提として、就労の見込のある場合には逸失利益を請求できます。

以上に対し、労働による収入の無い人は、基本的に逸失利益を請求することができません。

たとえば、無職無収入の人が交通事故被害に遭っても逸失利益は発生しません。

収入があっても、それが労働によるものでなければ逸失利益は認められません。例えば、不動産投資や株式配当で生活をしている人が被害者になったケースです。

また、会社役員の場合には、報酬に労働対価部分と利益配当部分があると考えられます。
このうち、労働対価部分については逸失利益が認められますが、利益配当部分については逸失利益が認められません。

【高齢(年金受給者)の場合】
高齢者でも、就労の見込のある限りは逸失利益が認められます。
また、高齢者の場合には、年金・恩給による収入も認めてもらえるケースがあります。判例上、国民年金、国家公務員・地方公務員の退職年金給付、恩給については逸失利益として肯定されています。
他方、障害年金の加給分、遺族厚生年金、軍人恩給の扶助料については、将来の存続の不確実性、受給権者の生計の維持を目的とした給付であることなどを理由に逸失利益として否定されています。

3.逸失利益の計算方法

逸失利益の計算方法は、後遺障害逸失利益と死亡逸失利益とで異なります。

(1) 後遺障害逸失利益の計算方法

後遺障害逸失利益の計算始期は、以下の通りです。

後遺障害逸失利益=基礎収入×労働能力喪失率×就労可能年数に対応するライプニッツ係数

①基礎収入

基礎収入は、事故前において実際に得ていた収入が基準となります。

ただし、主婦、子ども(学生)、赤字の自営業者などの場合、賃金センサス(厚生労働省による賃金構造基本統計調査)に基づいた平均賃金を使って計算することが多いです。

②労働能力喪失率

労働能力喪失率とは、後遺障害が残ったことにより労働能力が失われた程度を割合によって評価したものです。
例えば、労働能力喪失率が100%ということは、完全に仕事をする能力が失われたということです。

後遺障害には1級から14級までの等級がありますが、各等級の労働能力喪失率は、以下の通りです。

1級 2級 3級
100% 100% 100%
4級 5級 6級
92% 79% 67%
7級 8級 9級
56% 45% 35%
10級 11級 12級
27% 20% 14%
13級 14級
9% 5%

後遺障害は等級が高くなるほど程度が重くなるので、労働能力喪失率も当然上がります。

③ライプニッツ係数

ライプニッツ係数とは、中間利息を控除するための係数です。そのため、中間利息控除係数とも呼ばれます。

収入は本来であれば、年ごと、月ごとに受けとるべきものですが、逸失利益として損害賠償金を受けとるときには、将来の収入を含めて一括で受けとることになります。

すると、本来なら得られないはずの運用利益が発生すると考えられます。そこで、その利益を差し引くための調整が必要となります。
そのための係数が、ライプニッツ係数です。

ライプニッツ係数では、年3%の複利計算をもとにして数値が決定されています(2020年12月現在。2020年4月1日の民法改正で、法定利率が金利の情勢等に応じて3年ごとに見直されることとされたため、法定利率をもとに算出しているライプニッツ係数の値は今後変動する可能性があります。なお、2020年3月31日以前に発生した交通事故については,民法改正前の年5%の利率によるライプニッツ係数を用います)

ライプニッツ係数を当てはめるときには、症状固定時の年齢を基準として、就労可能年数(原則67歳まで)に対応する数字を採用します。

④後遺障害逸失利益計算の具体例

以上を前提に、後遺障害逸失利益の計算の具体例をご紹介します。

30歳男性 年収500万円の会社員が、むちうちで後遺障害12級になった場合
500万円(基礎収入)×14%(労働能力喪失率)×8.5302(ライプニッツ係数)=5971140
※むち打ち症で後遺障害等12級の場合には労働能力喪失期間が10年程度に制限されるケースが多いため,上記例でも10年間として算出しています。

 

40歳男性 年収800万円の自営業者が、高次脳機能障害で後遺障害5級になった場合
800万円(基礎収入)×79%(労働能力喪失率)×18.3270(ライプニッツ係数)=115826640

 

35歳の専業主婦が脊髄損傷で後遺障害7級になった場合
3,880,000円(基礎収入)×56%(労働能力喪失率)×20.3888(ライプニッツ係数)=44300784円(※小数点以下切り捨て)
※基礎収入は令和元年女性賃金センサスを用いています。

(2) 死亡逸失利益の計算方法

次に、死亡逸失利益の計算方法は、以下の通りです。

死亡逸失利益=基礎収入×(1-生活費控除率)×就労可能年数に対応するライプニッツ係数

①基礎収入

死亡逸失利益についても、事故前の収入を基礎とします。

基礎収入の考え方については、後遺障害逸失利益と同じで基本的には実収入を基準としますが、実収入を観念できない場合には賃金センサスなどを使って計算します。

②生活費控除率

生活費控除率とは、死亡逸失利益から、不要になった生活費を控除するための数値です。

交通事故で被害者が死亡すると、確かに収入を得られなくなりますが、反面生活費はかからなくなるので、その分を利益から差し引かなければなりません。
そこで「生活費控除率」という割合を用いて、逸失利益の金額を調整するのです。

生活費控除率の割合は、被害者の立場や性別によって異なります。

被害者の属性に応じた生活費控除率
被害者の属性 生活費控除率
一家の支柱 被扶養者1人 40%
被扶養者2人以上 30%
女性(主婦、独身、幼児等を含む 30%
男性(独身、幼児等を含む) 50%

③ライプニッツ係数

ライプニッツ係数についても、後遺障害逸失利益のケースと死亡逸失利益のケースで、取扱いは同じです。

④死亡逸失利益の具体的な計算例

死亡逸失利益についても、具体的な計算例をご紹介します(2020年4月1日以降の事故の場合)。

25歳会社員男性、年収350万円、独身者が死亡した場合
350万円(基礎収入)×(1-50%)(生活費控除)×23.7014(ライプニッツ係数)=41477450
※30歳未満の若年者の場合、基礎収入は賃金センサスを用いることも多いです。

 

30歳主婦が死亡した場合
3,880,000円(基礎収入)×(1-30%)(生活費控除)×22.1672(ライプニッツ係数)=58861152
※基礎収入は令和元年女性賃金センサスを用いています。

 

40歳男性、年収650万円、妻子(被扶養者)のある方が死亡した場合
650万円(基礎収入)×(1-30%)(生活費控除)×18.3270(ライプニッツ係数)=83387850

以上のように、交通事故の逸失利益の金額は非常に高くなることが多いです。

【逸失利益に男女格差はある?】
逸失利益の計算において、現在働いている方は事故前の収入を元にするので、男女による格差は生まれません。
しかし、専業主婦や学生の場合の計算で用いる「賃金センサス」には、「男性の平均賃金」「女性の平均賃金」の記載があり、被害者はそれぞれの性別により計算されることが多いです。この場合、逸失利益は男女によって大きく差が出てしまう可能性があるでしょう。

4.保険会社が逸失利益を否定・減額してくるケース

どのようなケースでも、上記のような適正な金額の逸失利益を受けとることができるとは限りません。

被害者の方が保険会社と示談交渉をするときには、さまざまな理由により、逸失利益を減額されてしまうこと・ゼロだと言われてしまうことがあります。

以下で、よくある保険会社の主張をいくつかご紹介します。

(1) 労働能力が低下していない

先述の通り、後遺障害の等級ごとに労働能力喪失率が定められていますが、実際には労働能力に影響がない後遺障害もあります。

たとえば、外貌醜状や醜状痕の後遺障害、味覚や嗅覚の後遺障害、脚の短縮障害、(軽度なケース)骨の変形障害、脾臓摘出などの場合、労働能力が失われていないと言われやすいです。

ただ、上記のような後遺障害の場合でも、仕事内容によっては労働能力に影響することもありますし、将来的に影響が出てくる可能性もありますから、労働能力喪失率が0になるとはかぎりません。

(2) 減収がない

後遺障害が残ったとしても、実際には減収が発生しないことがあります。そのような場合、逸失利益が否定されることがあります。

ただし、本人の特別な努力によって本来減るはずの収入が維持されている場合などには、実際の減収がなくても逸失利益を認める裁判例もあります。

以上のように、保険会社は、逸失利益を否定したり減額したりしてくることも多いのですが、そういったときに、その主張を鵜呑みにすべきではありません。

5.適正な逸失利益を得る方法

交通事故で、適正な逸失利益を獲得するには、以下のような対応がポイントになります。

(1) 保険会社から言われるままにならない

上記のように、保険会社は、逸失利益を否定したり減額したりするためにさまざまな理屈を言ってくるので、被害者にしてみると、「仕方が無いのかな」と思ってしまいがちです。

しかし、保険会社の主張は必ずしも正しいとは言えないので、そのまま受け入れると逸失利益が不当に減額されてしまう可能性があります。

弁護士が対応することで逸失利益を認めてもらえる可能性もあるので、保険会社の主張に納得できない場合にはすぐに弁護士に相談をすべきです。

(2) 自分でも逸失利益計算方法を理解しておく

保険会社から逸失利益の金額の提示を受けたとき、計算方法が分かっていなければ、それが適正なものかどうかがわかりません。
そこで、適正な金額の支払いを受けるためには、被害者自身が逸失利益の計算方法を把握しておくことが大切です。

逸失利益の計算方法は、かなり複雑なので、素人の方には難しく感じるかもしれません。
その場合、弁護士に相談をしていただけましたら、ケースごとに正しい逸失利益の金額を計算いたします。

(3) 弁護士に早めに相談する

逸失利益を獲得するためには、弁護士によるサポートが重要です。

逸失利益を得るにはそもそも後遺障害の等級認定を受けることが必要ですが、このためには弁護士による助力やアドバイスが重要となります。
事故直後からの医療機関の選択や通院方法が、後の後遺障害認定に影響を及ぼすことも多いからです。

また、保険会社と示談交渉をするときには、保険会社からのさまざまな主張に法的に対抗する必要もあります。

弁護士に相談をすると、例え困惑するような示談内容でも、これまでの裁判例などを参考に適切に反論することが可能となります。

このようなことを考えると、交通事故で怪我を負われた場合やご家族が亡くなられた場合には、なるべく早いタイミングで弁護士に対応を相談することが重要と言えます。

6.まとめ

交通事故で後遺症が残った場合や死亡事故のケースでは、逸失利益を請求することができます。
被害者の方が若かったケースや重大な後遺障害が残ったケース、収入が高額だったケースでは、億単位の逸失利益が発生することも珍しくありません。

しかし、実際には弁護士がついているかどうかで、請求の可否や請求できる金額が大きく変わってくることも多いのです。

泉総合法律事務所は、交通事故の被害者様のサポートに精通している法律事務所です。
適正な金額の逸失利益を請求するためにも、交通事故に遭われたらなるべくお早めにご相談ください。

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