高次脳機能障害の慰謝料

高次脳機能障害とは

脳には様々な機能がありますが、知覚、記憶、学習、思考、判断、感情などの脳の働きを「高次脳機能」と言います。高次脳機能障害とは、事故や病気によって脳が傷ついたことにより、高次脳機能に障害が生じた状態です。具体的には、事故や病気の前と比べて、思ったように話せない、記憶力が低下してすぐに忘れてしまう、集中力が低下してすぐに気が散ってしまう、感情のコントロールがうまくできないといった症状が現れます。

高次脳機能障害は、一見しただけでは分かりづらく、また本人の自覚も乏しいことが多いことから、周りの人から理解されにくい障害と言われています。また、症状や程度も人によって様々です。まるで別人かと思えるほど性格が変わることもあるそうです。

主な症状

高次脳機能障害の代表的な症状としては、以下のようなものがあります。なお、症状は必ずしも1つだけではなく、複数の症状が同時に認められることも多くあります。

【記憶障害】

・言われたことをすぐに忘れてしまう

・物の置き場所を忘れる

・日付が分からない

・自分のしたことを忘れてしまう

・新しいことを覚えられない

・同じ質問を何度も繰り返す

【注意障害】

・1つのことに集中できない(気が散りやすい)

・ぼんやりしてミスばかりする

・同時に複数の物事をこなせない

・他のことに行動を切り替えられない

【遂行機能障害】

・計画が立てられない

・行き当たりばったりの行動をする

・指示されないと行動できない

・物事の優先順位をつけられない

・間違いを次に活かせない

【社会的行動障害】

・すぐに怒ったり、泣いたり、笑ったりと、感情面で不安定

・子供っぽい態度をとる

・無制限に飲食したり、お金を使ったり、欲求を抑えられない

・場違いな行動や発言をする

・すぐに周囲に依存してしまう

・相手の立場や気持ちを考えられない

・じっとしていられない

【病識欠如】

・自分の障害について認識ができない

・自分の障害の存在を否定する

【その他の症状】

・失語症:普段使っていた言葉がうまく使えず、理解が損なわれる言語機能の障害。うまく話せない(話し方がぎこちない)、物の名前が出てこない、同じ言葉を何度も繰り返す、読み書きに支障が出るなど

・失行症:麻痺などの運動障害がないにもかかわらず、それまでできていた行動がうまくできなくなること。道具をうまく使えない、ある動作について頭では理解できているのに意図した動作が行えないなど

・失認症:見たり、聞いたり、触ったりといったそれぞれの感覚で物の認知がうまくできない状態。触っているものが何か分からない、人の顔の区別がうまくできないなど

・半側空間無視:空間の半分、右左どちらかへの注意が向けられず、そこにある物を見落としてしまう状態。片側の刺激に気づかず反応しない、皿に盛られた料理の片側半分しか食べない、歩行中に片側の障害物に気づかずぶつかってしまうなど

高次脳機能障害と交通事故

高次脳機能障害の原因となる疾患はいくつかありますが、交通事故による高次脳機能障害は脳外傷(外傷性脳損傷)が原因となります。脳外傷とは、直接的又は間接的に頭部に外から強い力が加わることで、脳の組織が損傷することです。

症状から見た後遺障害等級

交通事故の後遺障害については、自賠責保険において、症状の重さにより1級から14級までの等級で評価されます。1級が最も重い後遺障害で、14級が最も軽い後遺障害です。自動車損害賠償保障法施行令では、高次脳機能障害について、以下のような基準で1級から14級までの等級を定めています。

等級 後遺障害の内容(認定基準)
別表第1
1級1号
神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの

※身体機能は残存しているが高度の痴呆があるために、生活維持に必要な身の回り動作に全面的介護を要するもの
別表第1
2級1号
神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの

※著しい判断力の低下や情動の不安定などがあって、1人で外出することができず、日常の生活範囲は自宅内に限定されている。身体動作には排泄、食事などの活動を行うことができても、生命維持に必要な身辺動作に、家族からの声掛けや看視を欠かすことができないもの
別表第2
3級3号
神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの

※自宅周辺を1人で外出できるなど、日常生活の範囲は自宅に限定されていない。また、声掛けや、介助なしでも日常の動作を行える。しかし、記憶や注意力、新しいことを学習する能力、障害の自己認識、円滑な対人関係維持能力に著しい障害があって、一般就労が全くできないか、困難なもの
別表第2
5級2号
神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの

※単純繰り返し作業などに限定すれば、一般就労も可能。ただし新しい作業を学習できなかったり、環境が変わると作業を継続できなくなるなどの問題がある。このため一般人に比較して作業能力が著しく制限されており、就労の維持には、職場の理解と援助を欠かすことができないもの
別表第2
7級4号
神経系統の機能又は精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの

※一般就労を維持できるが、作業の手順が悪い、約束を忘れる、ミスが多いなどのことから一般人と同等の作業を行うことができないもの
別表第2
9級10号
神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの

※一般就労を維持できるが、問題解決能力などに障害が残り、作業効率や作業持続力などに問題があるもの
別表第2
12級13号
局部に頑固な神経症状を残すもの
別表第2
14級9号
局部に神経症状を残すもの

以上、高次脳機能障害の後遺障害等級についてでした。ここからは、それらのケースにおいて慰謝料がどれくらい得られるのか、自賠と裁判基準を比較しながら説明していきます。

後遺障害慰謝料(自賠責保険基準と弁護士基準)

等級 自賠責保険の慰謝料基準
(自賠責保険金額)
弁護士基準
1級 1600万円(4000万円) 2800万円
2級 1163万円(3000万円) 2370万円
3級 829万円(2219万円) 1990万円
5級 599万円(1574万円) 1400万円
7級 409万円(1051万円) 1000万円
9級 245万円(616万円) 690万円
12級 93万円(224万円) 290万円
14級 32万円(75万円) 110万円

注)1級の自賠責保険金額4000万円のうち、1600万円が後遺障害慰謝料に相当する額です。以下の級も同様です。

後遺障害として認められるために

高次脳機能障害審査の対象となる事案

自賠責保険の実務では、次の5つの要件を設定し、そのいずれか1つにでも該当する案件については、「高次脳機能障害が問題となる事案」(特定事案)として、慎重な調査が行われます。具体的には、原則として被害者本人及び家族に対して、脳外傷による高次脳機能障害の症状が残存しているか否かの確認を行い、その結果、高次脳機能障害を示唆する症状の残存が認められる場合には、高次脳機能障害に関する調査を実施のうえで、脳神経外科や精神神経科などの専門医を審査委員として構成する「高次脳機能障害審査会」で審査・認定が行われます。

初診時に頭部外傷の診断があり、経過の診断書において、高次脳機能障害、脳挫傷(後遺症)、びまん性軸索損傷、びまん性脳損傷等の診断がなされている症例
初診時に頭部外傷の診断があり、経過の診断書において、認知・行動・情緒障害を示唆する具体的な症状、あるいは失調性歩行、痙性片麻痺など高次脳機能障害に伴いやすい神経系統の障害が認められる症例

(注)具体的症状として、以下のようなものが挙げられる。

知能低下、思考・判断能力低下、記憶障害、記銘障害、見当識障害、注意力低下、発動性低下、抑制低下、自発性低下、気力低下、衝動性、易怒性、自己中心性

経過の診断書において、初診時の頭部画像所見として頭蓋内病変が記述されている症例
初診時に頭部外傷の診断があり、初診病院の経過の診断書において、当所の意識障害(半昏睡~昏睡で開眼・応答しない状態:JCSが3~2桁、GCSが12点以下)が少なくとも6時間以上、もしくは、健忘あるいは軽度意識障害(JCSが1桁、GCSが13~14点)が少なくとも1週間以上続いていることが確認できる症例
その他、脳外傷による高次脳機能障害が疑われる症例

なお、上記の要件は、あくまで自賠責保険において高次脳機能障害の残存の有無を審査する必要がある事案かどうかを選別するための基準であって(高次脳機能障害審査会の審査対象とするかどうかの基準ということです。)、高次脳機能障害の判定基準ではありません(上記要件に該当すれば高次脳機能障害として認定されるというわけではありません。)

後遺障害認定されるポイント

自賠責保険で高次脳機能障害として後遺障害の認定がなされるためのポイントとしては、以下のようなものがあります。

1 頭部外傷に関する診断がある

初診時の診断書に頭部外傷に関する記載があることが重要です。頭部外傷の例としては、脳挫傷、びまん性軸索損傷、びまん性脳損傷、急性硬膜外血種、急性硬膜下血腫、外傷性くも膜下血種、外傷性脳室血種、頭蓋底骨折などがあります。

高次脳機能障害に類似の症状が現れた場合でも、脳外傷(頭部外傷のうち、脳の器質的損傷があるものです。器質的損傷とは、身体の組織に物理的に生じた損傷のことを言います。)が原因でない場合には、高次脳機能障害とは認められません。

2 意識障害の有無とその程度

脳外傷による高次脳機能障害は、意識消失を伴うような頭部外傷後に起こりやすいことが大きな特徴ですので、意識障害の有無とその程度がポイントになります。

脳外傷直後の重い意識障害が約6時間以上継続するような場合は、永続的な高次脳機能障害が残ることが多いと言われています。また、脳外傷後の健忘や軽度の意識障害が1週間以上続いているような場合も高次脳機能障害が残ることがあります。

3 画像所見がある

脳が損傷したことを裏付ける画像(MRIやCTなど)や脳の損傷により生じた障害が残存したことを裏付ける画像が重要となります。画像資料上で外傷後ほぼ3か月以内に完成する脳室拡大・びまん性脳萎縮(「びまん性」とは、局所的ではなく、広範囲に拡がっている状態を言います。)の所見が重要なポイントとなります。

画像上は異常がない場合でも脳が損傷を受けている場合もありますし、受傷直後には損傷が画像に現れない場合もあります(びまん性軸索損傷の場合など)ので、画像がなければ高次脳機能障害が認定されないということではありませんが、画像があれば高次脳機能障害として正しい認定を受けやすくなります。

4 脳外傷と因果関係があること

自賠責保険で高次脳機能障害の後遺障害認定がされるためには、当然に、交通事故と高次脳機能障害との間に因果関係が認められなければなりません。頭部への打撲などがあっても、それが脳の器質的損傷(身体の組織が物理的損傷したこと)を示唆するものではなく、次第に増悪するなどした場合においては、頭部外傷とは無関係の疾病が発症した可能性が高いものとされ、脳外傷による高次脳機能障害と認定されない可能性が高くなります。

5 家族や介護者から得られる被害者の日常生活に関する情報

高次機能障害を負った被害者は自身の障害を正確に把握できていないことが少なくありません。ただ、被害者本人は事故前と変わらないつもりでも、周囲の人からみたら以前と違うとところがあることもあります。そのため、障害を把握するために、医師の所見だけでなく、家族や介護者から得られる被害者の日常生活に関する情報も重要とされています。

6 神経心理学的検査の実施

神経心理学的検査の実施により、検査結果から事故後にどのような能力が低下してしまったのかを明らかにしていくことができます。上でご説明したとおり、高次脳機能障害の症状には、記憶障害や注意障害、社会的行動障害など様々な症状がありますから、数ある神経心理学的検査の中から、最適な神経心理学的検査を医師に実施してもらう必要があります。的外れな検査を受けても意味がありません。

高次脳機能障害に関する裁判例紹介

1 岡山地裁倉敷支部平成14年6月28日判決

【事故状況】 交差点において、直進被告車両(普通乗用自動車)が直進原告車両(自転車)に衝突した。
【被害者】 男子中学生(事故時15歳、症状固定時16歳)
【受傷内容】 脳挫傷、びまん性軸索損傷等

【判決の概要】
原告(被害者)は、原告の後遺障害は、自賠責保険に用いられる後遺障害等級3級に該当すると主張し、被告は、同等級5級に該当すると主張して争いました。

裁判所は、必ずしも脳に明確な局在的損傷のあることが認め難いとしても、意識の回復過程ないしその後において事故後の被害者の認知能力や性格人格が事故前と比較して著しく変化し、通常の社会生活に適応できない障害を残す場合には、従来の後遺障害の認定では十分に対応できないという不都合を生じることもないではないとして、従来の自賠責保険後遺障害認定基準に加えて、脳外傷による高次脳機能障害の等級認定基準を補足的な基準として採用し、具体的なあてはめを行って、原告の障害につき、いわゆる高次脳機能障害に当たると認定したうえで、3級3号に当たると判断しました。

【認定された後遺障害等級】 3級3号
【後遺障害慰謝料】 1800万円
【労働能力喪失率】 100%
【労働能力喪失期間】 52年
【後遺障害による逸失利益】 8941万0136円

2 札幌高裁平成18年5月26日判決

【事故状況】 交差点手前において赤信号で停車中の原告車両(軽貨物自動車)に、後方から走行してきた被告車両(普通貨物自動車)が追突した。
【被害者】 女子高校生(症状固定時17歳)
【受傷内容】 頸椎捻挫、びまん性軸索損傷の可能性ありとの判断

【判決の概要】
控訴人(被害者)が高次脳機能障害を負ったか、が最大の争点となった裁判例。

本件事故は軽度の追突事故であり、控訴人には意識障害がなく、脳萎縮や脳室拡大等の明確な画像所見もなかったため、自賠責保険では高次脳機能障害が認定されませんでした。

裁判所は、医学的見地からすれば、控訴人が本件事故により脳に損傷を負ったとは明確には断定はできないとしつつ、司法上の判断であることから、本件事故直後の控訴人の症状と日常生活における行動をも検討し、外傷性による高次脳機能障害は、今後もその解明が期待される分野であって、現在の臨床現場等では脳機能障害と認識されにくい場合があり、昏睡や外見上の所見を伴わない場合は、その診断が極めて困難となる場合がありえるため、真に高次脳機能障害に該当する者に対する保護に欠ける場合があることをも考慮して、控訴人が高次脳機能障害を負ったと認定しました。

【認定された後遺障害等級】 3級3号
【後遺障害慰謝料】 1990万円
【労働能力喪失率】 100%
【労働能力喪失期間】 49年
【後遺障害による逸失利益】 8605万9619円

3 東京高裁平成20年1月24日

【事故状況】 原告車両(普通乗用自動車)に被告車両(普通乗用自動車)が追突した。
【被害者】 男性会社員(事故時40歳、症状固定時43歳)
【受傷内容】 頭部打撲、頚部捻挫等

【判決の概要】
控訴人(被害者)は、本件交通事故が原因で後遺障害5級2号に相当する高次脳機能障害が残ったと主張し、被控訴人(加害者)は高次脳機能障害はないとして争いました。

裁判所は、「控訴人については、本件交通事故により頭部に外力を受けたこと、事故後に認知障害や人格変化が生じ、そのために社会生活に支障が生じていることは認められるが、脳外傷による高次脳機能障害の診断の際重要な診断基準である一定時間継続する意識障害や脳室拡大・脳萎縮又は器質的な脳損傷を示す画像資料は認められないのであって、控訴人の上記症状が典型的な脳外傷による高次脳機能障害によるものでないことは明らかである。」としました。

そのうえで、さらに、拡散テンソル画像の異常、脳の血流低下・機能低下の事実が認められることから、認知障害等の事実と併せて、脳外傷による高次脳機能障害ないしこれに準ずるものとして本件交通事故の後遺障害と認めることができないかを検討しました。

もっとも、最終的には、認知障害等の徴証が本件交通事故の直後から生じていたとすることには疑問があること、拡散テンソル画像の異常、脳の血流低下等が認められたのが本件事故から7年以上も経過してからであること等から、控訴人の認知障害等を本件交通事故を原因とする脳外傷による高次脳機能障害ないしこれに準ずるものと認めることはできないと認定しました。

【認定された後遺障害等級】 12級12号(※頭痛、頸部痛、右顔面けいれんといった神経症状について認定されたものであり、高次脳機能障害が認定されたものではない。)
【後遺障害慰謝料】 270万円
【労働能力喪失率】 14%
【労働能力喪失期間】 15年間
【後遺障害による逸失利益】 690万4051円

4 東京地裁平成24年12月18日判決

【事故状況】 被告車両(普通乗用自動車)が、交差点手前の右折専用車線である第4車線から直進車線である第3車線に進路を変更しようとしたところ、第3車線を直進してきた原告車両(普通自動二輪車)と衝突した。
【被害者】 男性、大工(事故時28歳、症状固定時30歳)
【受傷内容】 頭部外傷、頚椎捻挫、全身打撲、頭蓋骨骨折及び脳挫傷等

【判決の概要】

自賠責保険は、頭部の画像から左前頭葉及び側頭葉における脳挫傷痕の残存やこれに限局した脳萎縮の所見は認められるものの、脳室の拡大や脳全体に及ぶ明らかな萎縮所見は認められない、事故当初における意識障害の程度等もあわせて勘案すると、重度の高次脳機能障害が生じたことを裏付ける他覚的な医学的所見は乏しいとして、高次脳機能障害を否定して、局部に頑固な神経症状を残すものとして12級13号を認定しました。

原告(被害者)は、後遺障害5級に相当する高次脳機能障害が残ったと主張し、被告(加害者)は自賠責の認定どおり12級にとどまるとして争いました。

裁判所は、①受傷直後の意識障害の有無ないし程度(受傷当日から3日の間、健忘を中心とする軽度の意識障害があった。)、②画像所見(原告の脳実質は、本件事故により広範囲にわたって損傷を受けたものと推認され、原告が本件事故によりびまん性脳損傷ないしびまん性軸索損傷を負ったことを示唆している。)、③医師の所見(3名の医師らが、自ら原告を診察した結果等に基づき、原告に脳損傷を原因とする記憶障害、注意障害及び遂行機能障害等が存するとの見解を示している。)、④家族の供述(家族の供述から、原告には、本件事故後、発語能力ないし意思疎通能力の低下、記憶力及び遂行能力の障害、易怒性及び無関心、病態に対する無自覚等がみられるようになっており、高次脳機能障害の特徴と合致する。)、⑤神経心理学的検査の結果(原告に対して行われた神経心理学的検査の結果は、いずれも、本件事故後において、原告の認知能力が標準を下回る程度の水準にあることを示す。)、⑥症状の経過(原告には、本件事故で受傷した当初から、脳損傷による記憶障害等の症状が現れていた。)、⑦原告の法廷での供述状況(発語は緩慢であり、個々の供述は、おおむね1語の主語又は目的語と動詞のみで構成されているなど。)などから、本件事故による脳損傷を原因として高次脳機能障害が残存したとして、5級2号を認定しました。

【認定された後遺障害等級】 5級2号
【後遺障害慰謝料】 1400万円
【労働能力喪失率】 79%
【労働能力喪失期間】 37年
【後遺障害による逸失利益】 7266万2086円

5 京都地裁平成17年12月15日判決

【事故状況】 信号機により交通整理の行われている交差点で、対面青信号に従って交差点を左折した被告車両が、交差点の歩道を横断歩行中の原告に衝突した。
【被害者】 男性、嘱託社員(デザイン業務)(事故時43歳、症状固定時45歳)
【受傷内容】 左頭頂骨骨折、脳挫傷、急性硬膜下血腫、外傷性くも膜下出血、急性硬膜下血腫、外傷性てんかん、頸椎椎間板ヘルニア、聴力障害等

【判決の概要】

自賠責保険は、後遺障害等級併合4級(易怒性、記銘力低下、感情失禁、社会的適応性の障害等の高次脳機能障害について5級2号、嗅覚障害について12級相当、味覚障害について12級相当)と認定しました。

原告(被害者)は、後遺障害の認定等級の程度については争いませんでしたが、労働能力喪失割合については実質的に検討すべきであり、原告の高次脳機能障害の症状からは実質的に就労不可能というべきであるから、労働能力喪失割合は100パーセントと算定すべきであると主張しました。

他方、被告(加害者)は、原告の後遺障害等級は9級10号に該当する程度であると主張しました。

裁判所は、①高次脳機能障害の症状である記憶障害、記銘力障害、地誌的障害、遂行機能障害、注意障害、情動・人格障害のために、本件事故後会社での勤務において、記憶力や持続性の低下が認められ、協調性に問題があって、孤立したり、他の社員らとトラブルが発生して、退職した事実が認められるが、原告のデザイン能力は本件事故後も低下しておらず、会社もその能力を高く評価していたし、退職もあくまで自主的になしたものであり、会社としては原告の人格変化により困惑していたにもかかわらず、直ちに解雇には向かわなかった、②高次脳機能障害者もリハビリ等によりその能力が一部でも回復する可能性も否定し去ることはできず、勤務先や家族等の理解、協力を得ることができれば、作業内容及びその程度に限定はあっても就職して継続的に勤務していくことも不可能とはいえないとしました。

そして、原告は完全に就労不能であるとまで評価することはできず、後遺障害認定等級を参考にして労働能力喪失割合を判断するのが相当であるとして、嗅覚障害及び味覚障害については、これによって直ちに労働能力割合に影響を与えるものではないことも考慮して、原告の労働能力喪失率は、85パーセントと評価するのが相当であるとしました。

【認定された後遺障害等級】 併合4級(高次脳機能障害としては5級2号)
【後遺障害慰謝料】 1700万円
【労働能力喪失率】 85%
【労働能力喪失期間】 22年
【後遺障害による逸失利益】 4596万8996円

6 仙台地裁平成20年3月26日判決

【事故状況】 交差点を直進していた原告車両(自転車)と、交差点に向かって右折進入していた被告車両(普通乗用自動車)が衝突した。
【被害者】 男性、会社員(事故時55歳、症状固定時55歳)
【受傷内容】 左側頭骨骨折、左硬膜外血腫、右硬膜下血腫、右側頭葉部脳挫傷、高次脳機能障害、左伝音性難聴、左外耳炎、左鎖骨骨折

【判決の概要】
被告(加害者)は、原告(被害者)が本件事故により高次脳機能障害の傷害を負ったことを争いました。

しかし、裁判所は、「原告には、入院当日の実施されたCT検査の結果、左側頭部に硬膜外血腫、右側頭部に硬膜下血腫、右側葉部にわずかな脳挫傷が認められた。入院当日から3日ほど、刺激なしで開眼するが見当識障害がみられた。関係証拠によると、本件事故後にみられている精神症状は高次脳機能障害の症状と合っている。原告を診察したC医師は、前記認定の状態を踏まえて、高次脳機能障害と診断している。これらの事情からすると、原告は、本件事故により、高次脳機能障害の傷害を負ったとみるのが相当である。」と認定しました。

そして、高次脳機能障害の後遺障害等級については7級4号に該当するとして、その他の後遺障害と併合して6級と認定しましたが、労働能力喪失率については、原告の職場や家庭での状況(職場で、①話の内容がころころ変わり職員や利用者との会話が成り立たないことがある、②職員からの引継ぎ事項をすぐに忘れる、③簡単な暗算ができない、④誤記、鍵の閉め忘れといった単純ミスを繰り返す、⑤居眠りをする、⑥職員の言うことを聞き入れない、⑦感情の起伏が激しく、突然、職員に対して攻撃的な態度を取る等の様子があり、自宅で、a話の内容がころころ変わり家族との会話が成り立たないことがある、bやかんでお湯を沸かしているのを忘れて空だきしたり、セルフのスタンドでおつりの受取りを忘れる、c簡単な暗算ができない、d感情の起伏が激しく、突然、家族に対して攻撃的な態度を取ったり、暴力を振るう、e被害者意識、被害妄想が強い、f自発性や発動性の低下等の様子がある。)を踏まえて、6級の労働能力喪失率(67%)と5級の労働能力喪失率(79%)の中間値である73%としました。

【認定された後遺障害等級】 併合6級(高次脳機能障害としては7級4号)
【後遺障害慰謝料】 1300万円
【労働能力喪失率】 73%
【労働能力喪失期間】 12年
【後遺障害による逸失利益】 2144万0978円

7 大阪高裁平成21年3月26日

【事故状況】 被告車両(普通貨物自動車)が中央線を越えて対向車線に進入し、対向車線を走行していた原告車両(普通貨物自動車)に衝突した。
【被害者】 男性、工事の現場監督(事故時52歳、症状固定時53歳)
【受傷内容】 頭部外傷Ⅱ型(脳震盪型)、頭部挫創、顔面挫創、両足関節挫傷、両足関節擦過傷、腰部挫傷

【判決の概要】

自賠責では、外傷性脳内病変は見られないこと等の理由により、高次脳機能障害は認定されませんでした。

控訴人(被害者)は、本件事故によってびまん性の脳損傷を受けた結果、脳の器質的損傷ないし高次脳機能障害の症状が存在すると主張しました。

他方、被控訴人(加害者)らは、控訴人について、CT、MRI上脳内損傷の画像所見が見られなかったことをもって、高次脳機能障害が残存していないと主張しました。

裁判所は、「確かに、控訴人には、本件事故当日及びそれ以降に行われた頭部X線検査、頭部CT検査及びMRI検査において異常所見が認められていない。」としつつ、控訴人が、①本件事故により頭部に極めて大きな外力を受けて頭部外傷の傷害を負ったこと、②その結果、本件事故後の控訴人には、意識喪失が生じ、比較的早期に意識回復したとはいうものの、見当識障害があり、意識清明に戻るには一定の時間を要したこと、③控訴人の本件事故後の症状は、典型的な高次脳機能障害症状を呈しており、高次脳機能障害と認定しても全く矛盾がないこと、④本件事故前の控訴人には、器質性であるか非器質性であるかを問わず、精神障害はなく、知能が普通よりも高めと見られたのに、本件事故後の知能検査の結果では、ほぼ正常の範囲内にあるものの軽度の知的障害も認められること、⑤本件事故後2回にわたって行われたSPECT検査では、軽度ではあるが脳血流の低下が認められていること、⑥本件事故後に控訴人を長期間にわたり治療して認知リハビリにあたった医師は、控訴人の本件事故後の症状を高次脳機能障害と診断して後遺障害診断書に記載していることを総合考慮すると、控訴人の本件事故後の症状は、高次脳機能障害の症状であると認めることができ、本件事故との因果関係を肯定できるとしました。

【認定された後遺障害等級】 9級
【後遺障害慰謝料】 710万円
【労働能力喪失率】 35%
【労働能力喪失期間】 14年間
【後遺障害による逸失利益】 1402万0814円

8 東京地裁平成22年5月13日

【事故状況】 交差点を直進通過しようとした原告車両(自動二輪車)と交差する道路の右側から進行してきて被告車両(普通貨物自動車)が衝突した。
【被害者】 男性、会社員(事故時48歳、症状固定時50歳)
【受傷内容】 頭部外傷、左橈骨遠位端骨折等

【判決の概要】

自賠責では、顔面部の醜状障害12級13号、視野障害9級3号で併合8級が認定されましたが、高次脳機能障害は認定されませんでした。

原告(被害者)は、本件事故により、左大脳半球のびまん性軸索損傷の傷害を負い、体幹機能障害、失調症、認知機能障害、起立・困難歩行、両上肢の巧緻性低下、記銘力障害、気分障害等の脳外傷に起因する身体機能障害及び高次脳機能障害の後遺障害を負い、これらの後遺障害は後遺障害等級3級3号に該当すると主張しました。

他方、被告(加害者)は、本件事故により、脳外傷に起因する身体機能障害及び高次脳機能障害を負っていないと主張しました。

裁判所は、①原告は、少なくとも本件事故後から6時間程度は、軽度の意識障害の状態が続いていたこと、②その後の入院中も、数日間は軽度の見当識障害の状態にあったこと、③本件事故当日のCT検査では、頭蓋内出血はみられず、本件事故から一定期間経過後に撮影したMRI画像上も、脳室拡大や脳萎縮などの脳損傷を裏付ける所見はないものの、本件事故の翌日である平成14年2月8日から13日にかけて、A病院において撮影したMRI画像等によれば、同病院医師やその後これを読影したB病院の医師によって、脳の病変や脳挫傷を疑う所見が示され、びまん性軸索損傷と診断されていることに照らすと、原告は、本件事故により、脳に一定の損傷を受けたことが認められること、④本件事故後一貫して、体幹失調や失調症の症状があり、通院先病院において頭部外傷による後遺症と診断されていること、⑤原告の精神症状について、医師により、物忘れ症状や新しいことの学習障害、複数の作業を並行処理する能力、集中力等の低下や易怒性、多弁といった性格上の変化が指摘され、鑑定の際に施行された各種検査でも同様の傾向がみて取れること等を併せ考慮すると、原告は、本件事故によって脳損傷を受け、これによって、体幹機能障害、失調症、巧緻性低下等の身体機能障害と記銘力障害や気分障害等の高次脳機能障害が後遺障害として残存したと認めるのが相当であるとしました。

そして、後遺障害の程度については、①本件事故後の原告の意識障害の程度は軽度であるうえ、MRI画像において顕著な脳挫傷痕はみられず、脳損傷の程度も軽度であると推認されること、通院先の病院や鑑定で実施された各種検査の結果は概ね良好であること、③原告が現在一人暮らしで、他人の介護や援助を受けないで生活していること、④原告が、本件訴訟の尋問において、終始、質問の趣旨を正確に把握して、これに対応して回答し、その内容も首尾一貫していること等を考慮すると、後遺障害等級7級4号に該当するとしました。

【認定された後遺障害等級】 併合6級(高次脳機能障害としては7級4号)
【後遺障害慰謝料】 1180万円
【労働能力喪失率】 67%
【労働能力喪失期間】 17年
【後遺障害による逸失利益】 3537万5794円

9 名古屋地裁平成24年2月24日

【事故状況】 交差点で、対向車線を走行して右折してきた被告車両(普通乗用自動車)が、直進してきた原告車両(自動二輪車)と衝突した。
【被害者】 女性、美容室社員(症状固定時31歳)
【受傷内容】 左脛腓骨骨折、両前腕骨骨折、左第1、2、3、中手骨骨折、両恥坐骨骨折、多発外傷(顔面、両上肢、腹部、骨盤、左下肢)、歯の脱臼等

【判決の概要】

自賠責では、左手関節の機能障害12級6号、左脛腓骨骨折後の左膝痛・左下腿の疼痛等14級10号、左下肢の瘢痕12級相当で併合11級が認定されましたが、高次脳機能障害は認定されませんでした。

原告(被害者)は、原告には高次脳機能障害の後遺障害があり、5級2号(もしくは7級)に該当すると主張しました。

他方、被告(加害者)は、原告は、強い意識障害があったわけではなく、一時的な意識障害も鎮静剤の影響であり、頭部MRI画像も頭部外傷といえる所見はなく、原告が器質性の高次脳機能障害を負ったと判断することはできないと主張しました。

裁判所は、「本件では、脳損傷につき画像所見から直ちにその旨の所見は認められないが、そのことから直ちに高次脳機能障害を否定することはできない。そして、原告は頭部に衝撃を受けており、本件事故前後の記憶がないこと及び事故直後の意識消失があり、意識障害の程度は低いが入院中一時記憶障害があり、本件事故後に前記認定の精神症状が現れていることを総合すると、原告は本件事故により高次脳機能障害の後遺障害が残ったものと推認される。」としました。

【認定された後遺障害等級】 併合6級(高次脳機能障害としては7級)
【後遺障害慰謝料】 1180万円
【労働能力喪失率】 67%
【労働能力喪失期間】 36年間
【後遺障害による逸失利益】 4263万5056円

モデルケース

1 男性(症状固定時40歳)、会社員(年収400万円)、高次脳機能障害等級3級3号

【後遺障害慰謝料】

1990万円(弁護士基準)

【労働能力喪失率】

100%(後遺障害等級3級3号の労働能力喪失率)

【労働能力喪失期間】

27年間(症状固定時の40歳から67歳まで)

【後遺障害による逸失利益】

5857万2000円(400万円×100%×ライプニッツ係数14.6430)

2 女性(症状固定時35歳)、会社員(年収350万円)高次脳機能障害等級5級2号

【後遺障害慰謝料】

1400万円(弁護士基準)

【労働能力喪失率】

79%(後遺障害等級5級2号の労働能力喪失率)

【労働能力喪失期間】

32年間(症状固定時の35歳から67歳まで)

【後遺障害による逸失利益】

4369万4465円(350万円×79%×ライプニッツ係数15.8027)

3 男性(症状固定時20歳)、大学生(年収0万円)高次脳機能障害等級7級4号

【後遺障害慰謝料】

1000万円(弁護士基準)

【労働能力喪失率】

56%(後遺障害等級7級4号の労働能力喪失率)

【労働能力喪失期間】

45年間(大学卒業時の22歳から67歳まで)

【後遺障害による逸失利益】

6595万2859円(平成28年賃金センサス男大学・大学院卒662万6100円×56%×ライプニッツ係数17.7741)

部位別後遺障害慰謝料一覧

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